ゾリグのお見合い大作戦
そう、今回の旅のクライマックスであるゾリグの見合いが始まろうとしていた。
車を飛ばしてムルンへ向かうも到着したのは深夜、ホテルはどこも満室。
一部屋だけ空いているホテルを見つけ、僕はゾリグと同じ部屋で寝る事になった。
部屋に入ると二週間分の体臭が部屋中に充満する。
過酷なキャンプ生活を終えた僕達はベッドに倒れこみ眠りについた。
しばらくするとゾリグのベッドから明かりが漏れているのに気が付く。
「オキノジ、起きてる?」
早く寝ろよと言い僕は眠ろうとする。
大体、何してんだよこんな時間に。
「別れた奥さんのフェイスブック見てます」
そんなもん見んなよwww寝ろよwww
ゾリグは去年の暮れに長年連れ添った奥さんと離婚した。
その事はあまりに衝撃的であんなに仲の良かった夫婦がなぜ・・・・・。
しかもゾリグには勿体ない位の美人だ。
まったく気にしていないと言いつつもゾリグは奥さんの近況などをマメにフェイスブックでチェックしているようだ。
「オキノジは好きな女の前で汚い恰好とかしますか?」
唐突な質問に間が空くも僕は答えた。
「見た目だけで判断するような女はいらん、俺の全てをさらけ出すぜ」
ゾリグもそれに賛同しているようだ。
「まったくもってその通りです、俺は明日髭を剃らないで行くわ、男のワイルド見せます」
カッコいい、かっこいいぞゾリグ。
「俺も髭なんて剃らない!ワイルド路線で行くからヨロシク」
二人でお見合い相手の家にはワイルド系で行く事を誓い眠りについた。
ポチポチ(携帯触る音)
「いい加減に元嫁のフェイスブック見るのやめろ!!!引きずりすぎwww」
しつこいゾリグ
「違います、元嫁の彼氏のページをチェック」
もっと気持ち悪いからwww女々しすぎだろwww寝ろよwww
40過ぎた頑固なオッサンと一緒に行動する僕の気持ちわかる?
めちゃ疲れるからwww
遂にゾリグの見合い相手の家に行く日が来た。
若干だが僕も緊張している。
ママさんは相当、勝気な性格らしく弱い所を見せると気に入ってもらえないと散々聞かされていた。
別に自分が見合いするわけじゃないしどうでも良いのだけどさ。
見合いを俺がぶち壊しても後味悪いし、ちょっとだけ緊張した。
そんな事を考えながら荷物の整理をしていると、ゾリグは市場へ行くと言い残し、部屋を後にした。
一時間後、市場から戻ったゾリグはシャワーを浴びると言いそそくさとシャワー室へ篭ってしまった。
僕は奴の手に持っているものを見逃さなかった。
昨日、髭なんて剃らないとか言っておきながらゾリグの手にはしっかりと髭剃りが握られていた。
あいつ、今日のお見合い本気だな。
内面で勝負!!!とか言いながら身綺麗にしてんじゃねえ!!!
「ふう、サッパリしました。男前になったでしょ?ジェルも買ってきました」
ゾリグうぜえええええええwww
オキノジも綺麗にしろと言われ、髭を剃りシャワーを浴びようと栓を捻るも水が出ない。
「どうやら水道管が破裂したようです、復旧には時間がかかります」
どうすんだよwww俺はどうすれば良いんだよwww
仕方なくミネラルウォーターを買い込み頭を洗い髭を剃った。
そんな僕を他所にゾリグは今日着る服を真剣に選んでいる。
何なんなのこのおっさん。
言ってる事とやってる事が全然違うじゃんwww
色々と試着しながら迷う事一時間、結局シンプルな白いTシャツに赤いバンダナを首に巻いて落ち着いた。
携帯には見合い先のママさんからいつ来るのか?と言った内容のメールがガンガン届いていた。
ゾリグは期待と不安の入り混じるような顔をしている。
「オキノジはどうおもいますか?相手は26歳ですけど」
年齢は関係なくてお互いの相性じゃないか?と当たり障りなく答えるとゾリグはニヤついている。
若い子と結婚できるかもしれないと言う淡い思いがあるからか?
いいや違う。
逆玉をゾリグは狙っているのだ。
見合い相手のママさんは結構な実業家らしく、娘と結婚すればその全てをゾリグに任せても良いと言ったらしい。
どおりでゾリグが飛びつくわけだ。
ウランバートルへ到着すると一台の4DWが僕達を待っていた。
車に乗り込もうとすると既に4人乗っている。
どうやって乗ればいいんだ。
「詰めて乗れば乗れるわよ」
とごもっともな事を言うママさん。
見合い相手の娘とその友達を挟むように車に乗り込んだ。
娘の顔を見ると若干強張った表情を浮かべている。
いきなり、母親から見合いをすると言われ、連れてこられたのだから無理もない話だ。
これからウランバートルから2時間の所にある別荘へと向かうらしい。
車内では必死にゾリグが娘に話しかけるが当たり障りない返事が返ってくるのみで脈は無い。
「オキノジ、どう思いますか?彼女は心を開いてくれません。どうしようか」
まあ、会って1時間そこらじゃ心も開かないだろと思いながらも友達思いの僕はゾリグを励ます。
「大丈夫だ!彼女はカッコいいお前を見て照れているだけだ。安心しろ!もう、お前にゾッコンだ」
正直、自分でも適当すぎる発言だと思ったよ。
こんな軽はずみな言葉ゾリグが真に受けるはずが
「ですよね!そうか、そうですよね。僕もそう思ってた。じっくり行きましょう」
前向きだったーwww
別荘に到着後、釣りに行こうとゾリグを誘うが全く動こうとせず、パパさんとママさんに必死にゴマをすっている。
うざい・・・うざすぎる。
「オキノジは俺の未来の奥さんと遊んでおいてください・・・・」
そう言ってゾリグはママさんの手伝いをしだした。
何なんwwwなんなんだよこれ!!見合いしてねえwww
娘も娘で連れて来た友達と片時も離れず、談笑している。
無理や、ワイはあのガールズトークに入る勇気ないで。
何もやることが無くて暇すぎる。
お前らもっと見合いしろよ!!!!!
いくら数日間あるからって話さ過ぎだろ!!!
ゾリグはママさんに気に入られようと媚び売ってんじゃねえwww
夕方になるとバルコニーの外が騒がしくなった。
どうやらゲルを作るらしい。
しかし、ゲルを持ってきた業者はゲルを組み立てず、荷物だけ置いて帰って行き、ママさん大激怒である。
あれを誰が組み立てるのだろう・・・嫌な予感しかしない。
人手が足りないと言われ僕も駆り出され皆でゲルを作る羽目になった。
しかも、皆ゲルを組み立てるのに慣れてないから悪戦苦闘だ。
モンゴル人は皆ゲル設置が上手いと思っていたが大間違いだった。
苦戦すること5時間、ようやくゲルが完成した。
釣りどころか、一日ゲル作りで終わってしまった。
完成後、宴会が始まる。
ママさんも良くやったと褒めてくれて、拷問レベルで料理を食べさせられた。
「オキノジ、明日こそアクティビティをしましょうハンティングとか」
アクティビティのワードにテンションがあがる
というかモンゴルに来てほぼ移動しかしてないように感じるのは気のせいだろうか。
「ハンティングは早朝3時に出発しますのでもう寝ましょう」
午前3時、ゾリグの声で目が覚める。
「オキノジ、時間です起きてください」
僕達はこれから狩へ行くのだ。
しかし外は生憎の雨である。
「雨も降っているし、山道もぬかるんでいるから今回は止めようぜ?」
と軽く中止を提案するも、メンバーはヤル気満々で中止という文字は彼らの頭には無いようだった。
4WDに乗り込み、目的地へと向かった。
サーチライトを暗闇の森に照らしながらゆっくりと車は進む。
途中、森の中からライトに照らされた獣の目が光る。
エルクだ。
この森にはエルクが沢山生息しているらしい。
しかしエルクは貴重らしく、年間の捕獲数が決められているため獲らないそうだ。
今回は食べても美味いイノシシを狙うと言う。
「今日は雨だし、動物が出てくるコンディションじゃない」
プロハンターのバーチャは呟いた。
それは出発する前に分かっている事だろ?何故それを今言ったのwww
雨も次第に強くなり視界はゼロ、この状況での山道の歩行は避けたい所だ。
「少し、雨が止むのを待ちましょう」
ゾリグも同じ考えだったらしい。
車の中でしばらく休憩をする事にしたのだが、気づくと3時間近く眠りについていた。
深夜に起きて出発した意味は!?
もう帰ろうぜwww
イノシシを何としても仕留めたい彼らは意を決し、小雨降りしきる山林へと足を踏み入れた。
地面はぬかるんでいて足元はすぐにグチャグチャになった。
無言で雨の中ひたすら歩いた。
2山~3山は超えた頃だろうか
「今日はイノシシいませんから帰りましょう」
もっと早く言えよ!!!
「動物は居ないから僕らの写真を撮ってください。さあ、撮って撮って」
皆とにかく写真が大好きなようだ。
別荘に戻ると娘の友達が朝ごはんを作っていた。
なかなか気が利く子だと感心して見ていると
「オキノジはあの女がタイプなのか?早くアプローチしてきなさい」
そんな事よりお前が早く娘に話しかけろよww
まったく進展の無いまま、時間だけが過ぎていく。
お互い、このままじゃマズイと思ったのか?
彼女の方から僕達を誘って酒を飲もうと言ってくれたのだ。
えらいぞ!!!娘!!とその友達!!
色々なリキュールをウォッカと混ぜた怪しいカクテルを提供された。
ウォッカベースで結構キツイ。
だんだん酔いも回り、ゾリグと娘も良い感じで話している。
娘は意外とおしゃべりなようだ。
スキンシップが凄い。
ゾリグの顔はゆるみっぱなしだった。
夜はポーカーを皆で楽しんだ。
ママさんはギャンブルが大好きなようで豪快な作戦で僕達を翻弄した。
勝っている時は大喜びで負けると激怒していた。
娘も最初は静かにプレイしていたが、ママさんの血を引いているのか段々と言動にママさんの面影が見え隠れする。
「あの娘は気が強いです。まるでママさんのようだ」
まったくその通りだ。
「でも大丈夫だと思います。あれはゲームですからハハハハ」
余裕を見せようと笑っているがゾリグの目は笑っていなかった。
「決めました。明日ちょっと言ってみます」
唐突に何を決めて何を言うんだゾリグ。
おい、早まるなゾリグ。
とりあえず、すべてが明日決まるらしい。
どうでも良いが面白そうなので「お前なら出来る問題ない」と勇気づけ寝ることにした。
お見合い最終日の朝が来た。
こうして3週間の長いようで短かったモンゴル旅も終わりを迎えようとしていた。
肝心のお見合いカップルはと言うと未だ良い進展は見られない。
やっぱり駄目なのか。
出発までの僅かな時間を惜しむようにゾリグは怒涛の勢いで話しかけている。
何をしゃべっているんだ。
笑い、真顔になり、また笑い。
一体なにを喋ってるんだ。
娘が席を立った隙にゾリグに会話の内容を聞いた。
「彼女は結婚してもモンゴルには住みたくないと言っています・・・」
娘は現在シンガポールに住んでおり、海外生活が長い為、モンゴルでの生活は色々と不自由があって嫌なようだ。
ゾリグは困ったような顔でこちらをみている。
とりあえず付き合って調整すれば?
無責任なアドバイスに真剣になって考えるゾリグ。
彼は未来の玉の輿を狙って真剣なのだ。
「そうだ!!良い事考えました。明日からフランス人をウール川に連れて行きます。
彼女も一緒に付いてきてくれないかオキノジ聞いてください」
なんで俺がwww
俺が聞くのは恥ずかしいと言ってすべては俺に託された。
フランス語が喋れる娘を通訳代わりにし、2週間寝起きを共にする事で2人の距離をぐっと縮めようという作戦らしい。
あわよくばキャンプ中に結ばれようと浅はかな考えだが、今はこれしかない。
「明日からゾリグとキャンプに行ってくれないか?フランス人の通訳として2週間ね」
少しストレートすぎたか、娘は目を白黒させながら返答に困っている。
いや、これくらいの方が気持ちが伝わるに違いない。
「遠いし、疲れるから嫌です。」
シンガポールに帰るし時間が無いらしい。
次は何時モンゴルに帰ってくるのかと尋ねると半年後らしい。
この縁談無理だわwwww。
こうしてゾリグの見合い?ならぬホームステイ生活が終了し、ウランバートルへ帰る時が来た。
5人乗りの車内には7人の大人が乗り、とても窮屈だ。
ゾリグなんてトランクに積まれている。
走行中、娘が僕の肩にもたれ掛って寝ているのを恨めしそうに見つめるゾリグの目線が痛かった。
ウランバートルに到着し、ホテルまで送ってもらいママさん家族とゾリグともここで別れた。
ありがとうママさん。
僕達は何しに行ったのか良くわからなかったけど楽しかったよ。
「また来なさい坊や」と豪快に笑いながらママさんは去って行った。
完
タックル
ベイトタックル(50g程度のルアーが投げれるセッティングで)
ライン:PE3-4号
リーダー:40-50lb
ルアー:トリプルインパクト、ネズミルアー、スプーン
状況が良ければトップ系ルアー最強
濁りが入った場合は底にいるので白系のワームにジグヘッドでリフト&フォール