さて、前日の内にマニアックな準備を終え、迎えた5月最初の朝。
出発前、「今日はサクッと釣って2時頃には終わるかもしれない」かみさんにはそんなことをうそぶいた。
というのも、タイで最も有名な釣具屋、セブンシーズプロショップが在庫全品半額セールという釣り人の狂気と歓喜に満ちたセールをやっていて、それに後ろ髪を引かれていたのだ。
前日土曜日にも行って何やかんやと物色したのだが、帰ってきたら来たで、「あぁ、あれ買えばよかったな、これ仕込んどけばよかったな」等と煩悩にまみれた物欲がまだ悶々としていたのだ。
前日の熱狂の様子
いざ!ブンサムランフィッシングパークへ
それはさておき、風は相変わらず強い、それに曇っている。
一緒に一日を過ごしてくれる家族には「過ごしやすくていいねぇ」等と言ってはいったものの、酷暑=好釣果と聞いていた僕の心の中は穏やかではなかった。
え?暑くないやん!?むしろ涼しいやん?大丈夫か?大丈夫なんか!?
とはいえ、予定通り8時少し前に家を出発。バンコク市街の我が家からブンサムランまでは50分ほど。ふわーっと吹いていた風がどんどん強くなる。今や車内からでもわかるくらい、ビュンビュンと。
そしてついに、
、、、ぽつ。。。ぽつ。。。ザ――――――ッ!!!
結構な勢いで雨が降り出した。
終わった。
僕は心の中で泣いた。この雨の様に。
到着時にはエントランスに車を横付けしなきゃいけないくらいの雨が降っていた。テンションは下がりつつも、来たからにはワクワクするのが釣り人の性。早速受付で今日の釣り座を決める。
ブンサムランには釣り代だけ楽しめる桟橋と別料金が必要なバンガローがある。桟橋の場合、魚の移動に合わせてアングラーが移動してきたり、仕掛けが絡んだりすることがあるので、相当時間待つ必要がある。また、僕の様に8フィート程度のタックルを使う場合には、デッキの張り出しが短い桟橋からは投げにくい。
初心者、家族連れ、自分のペースで釣りをするなら是非バンガローをお勧めしたい。
バンガローならクーラーもベッドもテレビも冷蔵庫もシャワーもあるしね♪
受付を済ませたのち、餌を買う。
知り合い曰く、「最近は糠ですよ!」との事なので、糠も買ったが、僕は糠団子が苦手だ。竿が長くて遠心力がかかるのと、糠団子づくりが下手なので、投げた時にどうしても崩れてしまうのだ。なので、いつも通りパンくずも買っておいた。ちなみにパンくずが入っているバケツは中身を見て買う事をお勧めする。バケツによってかなり量が差があるので、まじまじと比較する必要はないが、半分くらいしか入っていないのは開けた時のショックも大きいので避けよう。
だいたい、竿1本、1.5時間で1バケツ、一日で5-6バケツ消費する。
パン耳、糠、奥にあるのがバケツに入った餌
雨が落ち着くまで、しばしカフェゾーンで待つことにした。
待つこと15分、見事に雨は止んだ。風はまだ残っているが、問題ない。さあ行こう。
今日のバンガローは21番。
人数が大人3-4人程度迄、竿2本までなら18-21番あたりがお勧めだ。22番は奥まっているので非常に釣りにくい。これ以上人が増えてくると、24番以降。パーカーホを狙うなら28番か、1-6番。ただ、1-6番になるとメコンからのアタリの数は圧倒的に減る。
バンガローの配置図、サイズによって料金も異なる。
到着し、タックルの準備が終わると餌を混ぜ始める。
最近の配合は、タイでは洋菓子に混ぜるパンダンの液体+味の素。ココナッツオイルを入れる人もいるが、油脂は水質汚染に繋がるので、どうか使わないでほしい。
また、今は色んなタイ人アングラーが配合用のリキッドをFBで販売しているが、成分が分からないので、最近は使っていない。(決して何かマズい成分が入っているという事ではなく、成分が分からないので僕は使わない、というスタンスです。)
今回、池にアオコが生え始めているのが気になった。
若干水質が悪くなってきているのが気になる。
雨が止んだことが功を奏してか、水面に見える魚影も多く、池が活気づいている。先に入っていた隣のバンガローの釣り人たちは入れ食い状態だ。僕はなれない糠団子に焦る気持ちが団子の握りに伝わってか、なかなか上手く握れない。その間にも隣の人らは入れ食い状態。
気持ちを落ち着かせ、20kgほどの最初の一匹が釣れたのは開始から1時間半後、10時半のことだった。
大きさに関わらずよくあることだが、この最初のナマズの口には別の仕掛けがついていた。当然、それも外して優しくリリース。よこしまな僕は、池からの恩返しを待った。。。
口に他の仕掛けが残っていた。そっと外してリリースしてあげよう。
待った、待った。。。。。
そして、朝の地合いは終わった。
こんなもんだ、と言い聞かせ、噂の酷暑激熱タイムを期待しながらのんびりと過ごすことにした。バンガローではエアコンの聞いた部屋で子どもがゲームに興じている。
かみさんからは「あの時間にもっと釣らなきゃ」と。
ぐうの音も出ないが、お腹は空いたのでいつも通りチャーハンとパッタイ、コームヤーン(豚ののど肉を焼いたもの)、それにポテトをオーダー。ブンサムランは食事もそこそこに旨い。
その後もたまに釣れるものの、20キロ程度のパーカーホが一匹釣れた以外には、大型のアタリは無く、気が付けば時間は2時を回っていた。
中型のパーカーホ。大型でなければ珍しくはない。
カミさんはいった「結局こうなるんでしょ」
僕は言った「釣り具の為に、釣り切り上げるなんか本末転倒や、そんなやつおらんやろ」
舌の根も乾かぬうちに、とはよく言ったもんだ。
結局、昼の地合いはなかったものの、朝一よく釣れている時には夕方にも地合いが来る傾向がある。
夕方の地合いは15時半頃から日暮れまで。小型(といっても20kgくらいにはなるが)のプラーサワイーのあたりは減り、メコンのアタリが増える。陽も和らいでくるので、釣りもしやすくなる。(そして、結局帰りは遅くなる)
しかし、この日はアタリが出始めて暫くした16時頃から結構な風が吹き始めた。あまりよくない傾向だ。これでは魚が浮いてこない上に、仕掛けも風の影響を受けやすく定まらない。カゴに重りを足すなど、なんとか小さなアレンジを加えながら、ぽつぽつと釣り続けた。
16時半を過ぎたころ、突然風は止んだ。
ここにきて今日一番のチャンスタイムが来た。そう確信した。
団子を握りこむ握力も、仕掛けを投げる肩の力も疲労を感じつつも、遠投を続ける。朝のうちに手前の魚はもうスレてしまっているので、夕方の地合いは遠投が肝。狙うは、沖目を回遊する大型のメコン。
遂にその時が来た!
そして、17時少し回ったころ、その時は来た。
コトン。
フリーにしたリールの糸を掛けた栄養ドリンクM150の小瓶が倒れる。魚が来たサインだ。
待っている時はこの体制。絶対にベールはフリーに。
仕掛けを投げ込んでいるのは60メートル程先、それからパラパラと10メートルほど出続ける糸を見て、ベールを戻す。徐々に糸が張る。魚に違和感を与えず、且つ、その後の合わせが確実に伝わるくらいのテンションになったくらいで、思いっきりフッキング!決まった!
フッキングは魚の進行方向と反対に!
!!?
フッキングした時の重みが違う。一瞬で今日一番の大型である事を予感させた。
少し糸を巻いた後、遂に魚もこちらに気づいたのか、池の中央右側にゆっくりと泳ぎだした。決してスピード感がある走りではないが、悠々と糸を引き出していく。12㎏ドラグを掛けたリールから、5メートル、10メートル、、、と糸が出ていく。
針が外れないように慎重にやり取りしつつも、ついに来た、という想いから、にやにやが止まらない。
、、、20メートルほど糸を出されて、止まった。さあ、ここからはこっちの番、慎重に寄せる。竿尻が太ももに食い込む。
魚は気まぐれに方向を変えては糸を引きずり出していく。少しずつ距離を詰めながらも魚はかなり池の中央の方へ行ってしまった。
僕はここである事に気づく、なんと!隣のバンガローの仕掛けを巻き込んでいる!魚が横に泳いだ際にはよくある事ではあるが、相手も無理に引っ張ると糸が緩む等で外れるリスクが高い。
「コートーカーップ!(すいません)」と大きな声で知らせる。隣もすぐに気づき、引っかかっている仕掛け以外はすべて回収してくれた。引っかかっている仕掛けに関してはテンションがかからない様に糸を出してくれている。有難い!
一瞬、沖で魚がこちらを見るかのように浮く。波紋が尋常ではない。
デカい!!予感は確信に変わった。
徐々に糸をまき、竿先まで絡まった仕掛けがやってきた。竿から手が離せない以上、カミさんに任せるしかない。おそらく素人の100倍手慣れてはいるものの、本人も緊張からか、手元がおぼつかない。
なんだか糸がクチャクチャっとなってる!こっちも焦る!「なんでそんなややこしい感じで!?」と思わず声が出た所で見事に糸をほどいた。ナイスゥ!!!
さあ、これで言い訳はできなくなった、
一進一退を繰り返しながら徐々に距離を詰める。
残り5m、相手が完全に水面に姿を現す。まるでイルカ。しかし、魚はまだ頭を上げていない。あくまで水面直下を泳いでいる。
ここからが勝負だ。大型になればなるほど、魚が浮いた時と勝負をかけて魚を寄せるタイミングは異なる。特にまだ体力が有り余っている大型の個体が、最初に浮いた時に無理に寄せようとすると、足元でデッキの下に潜り込まれてしまう。そうなったら終わりだ。
リールはまかずに耐える、そして魚が沖にまた泳ぎだす。
ラインが出る、握力が奪われる。けれどもこれでいい!デッキのリスクは回避した!リールが熱い。ラインが熱で切れてしまわない様に、カミさんに水をかけてもらう。そしてまた寄せる。
何度か繰り返すうち、ついに少し遠くで頭を上げるような感じで水面に現れた。
ココや!!
渾身の力で竿を立てる。
「浮け!浮けっ!!!」
魚が頭を上にして寄ってくる。
「網ぃいぃぃ!!!」
カミさんが網をとりに走る!
魚がデッキに向かってくる!
ネットを水に入れる!
浮いた魚の頭がスーッと惰性でネットに吸い込まれる!
そして、、、ネットイン!!
完璧すぎる、イメージ通りのランディング。
おおおおぉぉぉおぉぉおおお!!!!遂に、遂に!!!
3年半、、、、何回も針を伸ばされて、糸を切られて、途中で外れて、、、大切にしていた竿を折られて、肩を落として「また次回」を繰り返していた日々。長かった。。。
色んなことを思い出しながら、僕は暫くの間、体の1/3程度しか網に入っていないサイズの魚をただただ眺めていた。
現実味が増してきて、嬉しさが溢れてきて、気付けば体は少し震えていた。
その後は歓喜の撮影会。
魚は上げられないので、自ら水中へイン。
毎回ついてきてくれるカミさんと子ども、一緒に喜んでくれたしげる氏にも本当に感謝。
ありがとう。
片付けを終え、仲良しのスタッフ、ギフトさんに写真を見せる。
Ohー!ハンドレット―!!!」
へへへ、今日は完全勝利。
こいつは、最高だ。
さぁ、次は150kgを目指そう。