満開に咲いた桜の花びらがひらひらと春空に舞う。花散る若干の寂しさと生き物達が動き出す本格的な春の訪れに喜びを感じる4月上旬。タナゴ界の名脇役ともいえるヤリタナゴに逢いに近所の水路へ出掛けることにした。
果たして、美しい婚姻色BREEDING COLOR に逢うことはできるだろうか。
ヤリタナゴとは
産卵期は4月~8月までで、ドブガイ、カラスガイ、マツカサガイ等と言ったイシガイ科の二枚貝を好んで産卵を行い、槍の様に細長い体形が名前の由来となる。北海道以外と南九州以外の日本列島に幅広く生息しており、在来のタナゴの中では最も広く生息しており親しみやすい。とは言え、2007年には環境省レッドリストの準絶滅危惧種に指定されている。
2022年現時点の釣獲可能のタナゴ14種の中では比較的釣りやすく大型のヤリタナゴだが、最高潮時の婚姻色は美しく濃淡がはっきり体表に現れる。そんな親しみやすいが、素晴らしい婚姻色を魅せてくれるヤリタナゴ、人間様の俳優界で言い現わせば、遠藤憲一氏や阿部サダオ氏の様な名脇役の様な存在と言っても過言ではない。
ヤリタナゴを釣ろう
タナゴ釣り全般はとても繊細で、細い竿先から小刻みに伝わる生命感と釣りあげて宙を舞う瞬間からタナゴ達が魅せてくれる美しい体色が魅力的なもの。老眼で仕掛けは見にくいが、婚姻色は目から鱗が落ちる美しさ。余程コンディションが悪くなければ釣れる魚ではあるのだが、環境変化などで生息域は著しく減少しており、その限定的な生息場所を把握することこそが釣果の100%を握ると言っても過言ではない。
緩やかな流れの水路・河川・池・沼などを好むが、なんといっても彼らが産卵を行う二枚貝が生息している事が必須となる。
今回のポイントもヤリタナゴ以外にもカゼトゲタナゴ、カネヒラ等が生息するドブガイが多く生息するタナゴ釣りの一級ポイントで期待大である。
ヤリタナゴは雑食性でグルテン、黄身練り、アカムシ等、比較的餌を選ばず食べてくれる。今回はアカムシが手に入らず紅サシを細かく切って針に通し、そっと水面にウキを漂わせた。
釣ったヤリタナゴを観察してみよう
春の陽気に高活性のヤリタナゴ達。一投目からウキが沈み竿をたてると美しい婚姻色が宙を舞い続けた。
早速釣れたヤリタナゴ達の細部を観察してみよう。
産卵期の雄の鼻先に観られるブツブツ追星はとても色っぽい(個人的感想)。そして、ヤリタナゴは口元に蓄えるヒゲが他種のタナゴ達と比較すると長いのが特徴。
満開の桜の中ヤリタナゴの婚姻色は5分咲きと言ったところであろうか。
背鰭条の間に観られる黒い斑紋。こちらもヤリタナゴをはじめアブラボテ属に観ることができる特徴だ。
因みにアブラボテ属は、アブラボテ、ヤリタナゴ、天然記念物ミヤコタナゴの三種で構成されている。
ヤリタナゴ雄の婚姻色の特徴は背鰭・しり鰭の先が朱色に染まり腹部から腹鰭にわたって黒くなる。
体表全体も輝く黒緑色に覆われる。
さて、生息域の広いヤリタナゴ。日本国内のヤリタナゴでも7系統に分類され、特に雄の婚姻色や体高などに相違がみられるという。
こちらは北陸・富山県で釣ったヤリタナゴ。婚姻色が最高潮に近くとても美しい。
そしてこちらは九州のヤリタナゴ。その本州産のヤリタナゴとの外観相違、お気づきになられたであろうか?私は正直さっぱりわからないであります。
一方の雌。ヤリタナゴの産卵管は他のタナゴと比較すると短く薄い茶色で透明感がある。控えめながら色っぽく雄心をくすぐる。
今から夏に向けて最盛期を迎えるヤリタナゴ達の恋物語。色気付いた美少年と産卵管をむき出しにした恥じらう乙女。是非、こっそり近所の水路を覗いて観ては如何でしょうか?どきどきする事間違いなし!!
次回こちらも婚姻色の最盛期をまもなく迎えるアブラボテをご紹介させていただこうと思う。乞う御期待です!