ホワイトスタージョン釣行記『後編』 皇帝と呼ばれた魚(カナダ・チリワック)

ホワイトスタージョン釣行記『後編』 皇帝と呼ばれた魚(カナダ・チリワック)

魚類に留まらず両性爬虫類から昆虫まで探して国内外を旅する 嬉し恥ずかしの51歳。福岡県出身・おうし座。

『見えている魚は釣れない』とはよく言うが、魚探に映るも巨大なホワイトスタージョンもまた釣れる気配がない。『数時間もすれば5~6匹の巨大スタージョンがお目見えするぞ!腰痛には気を付けろよ!』と饒舌に話していた船長も、かなりバツが悪そうに『BAD DAY…』と呟くのが精一杯。ただただ時間と大河フレザーリバーの澄んだ川の水だけが流れ続けた。

前編はこちらから



時折、竿先が曲がり、ドラグが勢いよく鳴るも、水面に顔を出すのは1mにも及ばない小型のホワイトスタージョン達。無情にも遠くの雪山に初日釣行の日が陰りだそうとしている。

ホワイトスタージョン釣行。釣り餌。ホワイトスタージョン釣行。釣り餌。餌はイクラとヤツメウナギの近似種と思われる魚の死骸を使用。イクラは薄いガーゼ生地で包んで釣り針に結び付ける。




釣れた小振りのホワイトスタージョンを観察してみる。

ホワイトスタージョン釣行。ホワイトスタージョンの細部。4本の髭がついており、この4本の髭で使って餌を探し、川底の魚類の死骸や卵塊、甲殻類などを好んで食べているようである。

 

ホワイトスタージョン釣行。ホワイトスタージョンの細部。口は真下についており、川底の餌を吸い込むように食べることに適した形状になっている。

 

ホワイトスタージョン釣行。ホワイトスタージョンの細部。側部にある硬鱗が蝶に似た形状をしており、これがチョウザメと呼ばれる所以になったとか。

 


皇帝現わる

暗くなるまで残り1時間と言ったところだろうか。船長も時間を気にして、腕時計を覗き込む回数が増えた。今日は駄目か‥‥釣行日を2日間にしておいて良かった。そう諦めかけた時、突然、強烈なドラグ音が冷たい空気と静寂を切り裂いた。

竿に飛びついた私は、明らかに先程までの魚とは違う重みと初速の速さを感じ大喜び。しかしながら、喜んだのも、つかの間でスタージョンが右に走れば私も船の後方右側に引きずられ、左に走れば左側に引っ張られる。その重量と力強さに圧倒的に翻弄された。

その後も20分程耐え凌ぎ、遂にホワイトスタージョンは水面にその姿を現した。先程までのサイズとは違い、明らかに大きく、そして美しい。

 

 

ホワイトスタージョン。カナダ・フレザーリバー。まるで格闘の様なやりとりであった。183㎝と最大サイズまでは程遠い感じではあるが、初日最後に釣れた1匹。最低限の仕事ができ安堵した。
アントニオ猪木的な感じのポーズで、初日を締めくくった。『ダぁぁぁぁぁ!』一人歓喜に沸いたこのスタージョン。実はスレ掛かりであったのだが‥‥

その後リリース。フレザーリバーへ悠々と帰っていく皇帝、最後はもちろん『元気ですかぁぁぁ!!』で見送った。

一人ぼっちのチリワックの夜はとても退屈で夕食はホテル目の前のお店で惣菜を買い込み、寂しく夕食を済ませると何時の間にか眠りにつき初日を終えた。




2日目。新しい朝が来た。希望の朝だ。早朝まだ暗いうちに出船場所に車を走らせる。到着と共に薄っすらと明るくなり始めると、フレザーリバーとそれを取り囲む大自然が姿をみせた。

ホワイトスタージョン。カナダ・フレザーリバー。今日も遠くの雪山から強烈に冷たい風が吹き下ろしてくるが、今日こそは終日大物とのやり取りで暑い1日になることを願いつつボートに乗り込んだ。

 

ホワイトスタージョン。カナダ・フレザーリバー。川を取り囲む樹木は殆ど針葉樹で一層寒々しさを引き立てている。

 

船長は1匹とはいえ取り敢えずアベレージサイズを釣らせて安堵したのか、朝から饒舌。余りの寒さに震える私を気にも留めず、サーモンの遡上の事。今までガイドしてきたアングラーの事。話は延々と続いた。

ホワイトスタージョン。カナダ・フレザーリバーは酷寒。基本は待ちの釣り。待っている間はこのストーブが寒さ対策の頼みの綱。まさかこの数時間後に故障するとは…

船長の話は更に延々と続き、気付けば数匹の小型チョウザメが釣れた以外は何事も起こらず、昼食となり、そして夕方になろうとしていた。

 

 

ホワイトスタージョン。カナダ・フレザーリバーのサーモン釣り。

ホワイトスタージョン。カナダ・フレザーリバーのサーモン釣り。今日も多くの釣人がチャムサーモンの遡上を狙い、夕方まで釣り続けていた。一方の私と言えば、一日中船長から英語のヒアリングの授業を受けている様で….

 

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバーの野生動物。ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバーの野生動物。ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバーの野生動物。アザラシの群れに遭遇し、眺めたり。

 

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバーの野生動物。猛禽類が力尽きたサーモンを啄むのを眺めたり。

 

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。アラスカから走って来た電車を眺めたり。

 

間もなく日が暮れる。『残念だがそろそろ引き上げようか。』船長がつぶやいた。その無情の言葉を聞いて私も天を仰いだ。

 まさにその瞬間、竿が大きく曲がりドラグ音がなった。いかにもドラマティックである。竿を握った瞬時に大きな手応えを感じた。皇帝スタージョンとの第2ラウンドの開始である。巻いては一気に出されるライン。最期の闘いも激しいものになった。やり取りは20分程に及んだが、遂に最後の皇帝は浅瀬に身体を横たえた。

 

 

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。186㎝のホワイトスタージョン。今度はしっかり口にフッキングしていた。

第2ラウンドは終了し、最後はスタンハンセン的なポーズと共に雄叫びをあげた。『うぃぃィィー!!』カナダの大自然とこの美しい巨大魚への感謝の雄叫びはフレザーリバーに響き渡る。
近くの大木に寝ていたアザラシたちはその雄叫びに驚き、一斉に川に飛び込んだ。

当初目標としていた2.0m以上のホワイトスタージョンは結局獲れなかったが、この時期にしか観られないフレザーリバーに暮らす美しい生き物と彼らを取り囲む美しい大自然に逢えて大満足。

船長とお別れを言い今回の釣行を終えた。

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。チリワックの街並。いつの日かこの地に舞い戻り、第3ラウンドに挑みたいと思う。因みに私は特にプロレスが好きと言う訳でもない事は追記しておく。


*この記事は2021年9月16日に掲載されたMonsters Pro Shopのリメイク記事になります。

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