2018年7月。日本最大級の干潟である荒尾干潟でアナジャコを狙った。九州のこの地方ではマジャクとも呼ばれているそうだ。
干潟には数人の凄腕とみられる老人がいた。数時間経っても獲れなかった私は一人の影の薄そうな爺さんにコツを聞いてみた。
私:『東京から来たのですが、初めてで。なんかコツとかあるのですか?』
爺:『ほぅ!東京から来なさったか!コツはな!なんと!コツコツやる事じゃ!!』
私:『コツコツ‥‥』
仕方なくコツコツとアナジャコ釣りを再開した私、遂に時合が訪れたか!?あっという間に14匹のアナジャコを穴から抜き上げた。爺さんに礼を言おうと探したが爺さんは蜃気楼のように姿を消した.....
アナジャコとは
全長は10㎝前後。北海道から九州まで広範囲の干潟に生息し、地中に2m程のY字状の巣穴を掘り地中で暮らしている。鋏を持ち合わせているが髭を使いプランクトンを濾して主食としている。
また、瀬戸内海や有明海周辺では食材として利用される事が多い。全国的にはあまり流通していないが、非常に美味とされており期待が膨らむ。
今回の捕獲方法としては巣穴に筆を差し込み、巣穴の異物を取り除こうと巣穴近くまで出てきたアナジャコを手で抑え込むと言う。アナジャコの習性を利用した伝統的な漁法だ。
因みに、シャコと名が付くが、市場に出回るシャコとは分類上別の生き物となる。
一方、こちらはオキナワアナジャコ。こちらもシャコ及びアナジャコとは分類上区別される。マングローブの群生地に多く生息し、同じく地中に巣穴を掘る。穴の入口周辺には穴を掘った際にでた泥を積み上げるが、その泥を積み上げたものはシャコ塚と呼ばれ3mにもなると言う。
こちらはオキナワアナジャコの捕獲方法。夜間にシャコ塚の入口から内部をライトで照らす。光を嫌ったアナジャコが穴の入り口を埋めようと上がってくるところで塚の上部を巨大なハケで切り倒すというもの。
尚、オキナワアナジャコは20㎝~30㎝と大型化する個体もいるようだ。
アナジャコを釣ろう。
時は過ぎ2023年春。蜃気楼と共に消えた爺さんから教わったコツと謙虚さも忘れた私は再び有明海の干潟におりたつことになる。その日の干潟は大潮干潮。大賑わいで多くの爺さん・婆さんが筆を持って集まっていた。
『爺さんは昨日80匹超えた。』
『あの婆さんは100匹を超えた。』
等と自慢話に花咲かせている。
爺さん&婆さんでそんなに獲れるなら機敏に動ける我々なら300匹は堅いな…..
今日は干潟の筆頭は楽勝頂いた!!そう思っていた。
干潟に円を描くように15㎝、直径1m程を削りとります。削り取った泥の底には無数の穴が現れます。そこに筆を刺していきます。しばらくすると刺した筆がじわりじわりとあがってきます。
これはアナジャコが自分の巣穴に外敵が侵入したと勘違いして筆を押し上げているのです。
筆を繊細に上下に揺らしながらアナジャコを巣穴の入口まで誘導します。強く押してはアナジャコがびっくりして巣穴の奥に逃げ込んでしまうので気を付けましょう。
巣穴の入口で待ち構えてアナジャコの両鋏を抑え込みます。片手だけ抑えてしまうとアナジャコは手を自切して逃げますので必ず両手を抑え込むようにしましょう。これが基本的な捕獲方法です。理屈は簡単です。
とはいっても今回私と友人で3匹のみの捕獲となっておりますので全くもって説得力がありません。
悪しからずご了承ください。
アナジャコを観察してみる
さて、干潟に響き渡る雄叫びと共にやっと巣穴から抜き上げたアナジャコ。最初の1匹を捕獲するまでに、鋏を自切して逃げられたアナジャコ数知れず。ありがたく細部を観察してみよう。
全長は10㎝程。甲殻類と言っても爪と頭部先端以外の殻は非常に柔らかい。捕獲の際に潰さないように注意が必要。
先ずは頭部。やはり干潟の穴で暮らしているからだろうか目は非常に小さい。また、口周辺と鋏の後ろの胸脚に生えている繊毛でプランクトン等をろ過し食べている。
そして鋏。片方の指節がとても小さく、もはや鋏と言うより爪と言った機能ではなかろうか。外敵を穴から追いやったり巣穴を掘ったりする際に役立つと言ったところか。
最後に腹部。腹部も非常に柔らかい。尾の裏面に観られる遊泳脚を用い巣穴で流れを作り海水のプランクトンを濾過する。所謂濾過摂食動物と呼ばれる。
尚、この遊泳脚が4対、雄5対であれば雌とされる。
アナジャコを調理して食べてみる
さて、虎の子の3匹であるアナジャコを持ちかえる。炊き立てのご飯に紫蘇の葉とアナジャコの天婦羅を乗せたアナジャコ丼だ。
サクッとした歯応えの後に柔らかく溶けてしまいそうな軽い身質。口一杯に上品な甲殻類特有の香りが広がる。そして、最後に来るアナジャコ味噌の濃厚さ。
これは美味い。
過去に捕まえて食べた甲殻類の中で5本の指に入る絶品食材だ。
アナジャコを頬張りながら次こそはとリベンジを誓うのであった。
ただ決して忘れてはいけない。干潟に現れるアナジャコ爺さんと婆さんは屈強なハンターだということを。
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