リベンジ完了
テント内は降り続いた雨で結露しており、壁面が濡れている。明け方近くになると一層気温が落ち、寝袋に入っていても背筋が凍るほどで身体が震えた。また、一晩中鳴り響くマサのイビキで眠りが浅く、僕は4時には目を覚ましテントから這い出た。熱い紅茶で身体を温めながら空を見上げると、昨日まで空を厚く覆っていた雲は薄くなり、僅かではあるが日が差そうとしていた。
全員目覚め、朝食を簡単に済ませると、早速、竿と釣り道具を抱えて各々ボートに乗り込んだ。
キャンプ地から僅か下流の流れ込みのあるポイントに船をつけた2艇。それぞれ上陸しキャストを始める。
暫くすると本流の激流にキャストを続けていたマサが大声をあげた。
どうやらタイメンを流芯で掛けたようだった。一番遠くにいた私が彼のもとに辿り着いた時には既にタイメンは岸に上がっていた。
中層でミノーをひったくったタイメンのサイズは106㎝と立派なサイズ。このチャンスを掴むべく、私もその流心に45gのスプーンを投げ込んだ。
去年の経験で同じ流心には数匹のタイメンが居ついているケースが多く、しかもボトムに大型個体が居座っている可能性が高いことを知っていた。
竿を立てると流れに乗ったスプーンは、コツコツと流れながら底の石を叩いているのが伝わった。2投目、コツコツと石を叩いたスプーンを軽くリフトさせた瞬間、竿先に流れとは確実に違う強い生命感を感じた。渾身の合わせを入れた瞬間、激流に乗ったその魚はドラグ音を軽快に鳴らし下流に向けて疾走した。
20分程ボトム付近でのやり取りが続いた後、徐々に魚は流心から外れ、そして表層にあがって来た。水面に水しぶきが大きくたち。白銀のボディと真紅の尻鰭が水しぶきの間から姿をみせた。
なんとかタイメンの最後の抵抗を凌ぎ、足元に手繰り寄せた。
118㎝14㎏の太くそして美しいタイメン。素直に嬉しくて叫んだ。
その後、余韻に浸っているのも、つかの間、雨が降り出した。次第にその雨は冷たくそして狂ったように激しく降り出し僕らの体温を奪っていった。
私の今回の釣行は、初日にフィナーレを迎えることとなった。
迫りくる増水
状況はますます悪化していく。河岸に設置したキャンプ場は水浴びをしたり、レノック釣りを楽しむのに良い場所であったのだが、私が運よくリベンジを達成した初日の夕方から降り出した雨は、その後最終日を迎えるまで止むことは無く日を増すごとに水量は増え続けた。
最終的には僕らの河原のキャンプ場は水没し我々は高台の森に移動せざるを得なかった。
森に移れば安全。しかし、そこには無数の蚊とダニが我々を待ち構えている。
河原でのキャンプ生活は場所も広く、釣り以外の楽しみもあった。自作サウナ、初めての発砲体験、山菜採取、コックの作るアウトドア料理等。
高台の森に僅かに開けた狭い場所に移動することによりその楽しみの多くも奪われることとなった。
『サウナ』
積み上げた石を薪で被せたかと思うと火をつけた。熱々に焼かれた石の周りに濡れた松の枝を敷き詰めてテントをかければ簡易のサウナの出来上がりだ。ガイドも釣り人も裸で国際交流。ほてった身体のまま川に飛び込む。
『猟銃』
このエリアにも熊が生息しているという。護身用のライフルを試し打ちさせてもらった。
『山菜』
川岸に生えるクリムシャッドと呼ばれていた植物。いわゆる行者ニンニクかと。
生のまま塩を付けてそのまま頂けば、口の中にニンニクのような香りが漂いとてもおいしい。
高台にキャンプ地を移した後はテント周りに生えるワラビを頂く。ロシア風な味付けで美味しく調理される。
『グルメ』
料理長はいつも暖かいスープを我々に用意してくれた。裸にネクタイ。どうやら彼は寒くないらしい。
スープとパンがほぼ主食。たまにアムールパイク・レノック・南方大口ナマズがご馳走となる。
ゲンキマンのリベンジ
最終日まで降り続いた雨。今回一緒にリベンジを誓ってやってきたゲンキマンは、苦戦を強いられる。私も自分のリベンジが済んだ後は、彼と同じボートに乗りサポートに徹した。
今回の6人の中でも釣りの腕前は1番2番の彼。私もなぜ釣れないか不思議でならなかった。4匹は確実に超大物を掛けていたが、計8度も絶好のチャンスを逃した彼の元には満足サイズは現れなかった。
過酷な状況の中で諦めず、最後の一投まで冷静に投げ続けた彼の背中。
最期までやり切った誇りと強さが、夕日に照らされ美しかった。
タックル紹介
ロッド : Fin-ch canaria 76M
リール : SIMANO STRADIC 5000XG
PE : 4号
リーダー : 50LB
HITルアー : ノースX shell S12S