一枚、二枚、三枚、四枚‥‥。私が数えているのは、播州皿屋敷の怪談で有名なお皿ではない。粉々に割れた投棄された瓦である。
西表島のとある海岸沿い、瓦をめくっては戻し、めくっては戻し、既に数えた瓦は264枚に達そうとしていた。目的はただ一つ。瓦の間に潜むマダラサソリを探す為である。
今回は日本に生息するサソリ2種をご紹介させいただく。
日本に生息するサソリたち
マダラサソリ(Isometrus maculatus)
ヤエヤマサソリ (liocheles australasiae)
日本に生息するサソリの仲間は2種類。マダラサソリとヤエヤマサソリだ。
サソリと言えば砂漠やジャングルに潜む超危険生物。猛毒で刺された者はイチコロであの世行きと、恐れられるようなイメージ。
ところが日本に生息するサソリ2種は非常に小さく、大人しく、毒性も微弱、日本人の様に穏やかで慎ましい。
そして、その双方が八重山諸島に生息しているが、2種のサソリに比較的簡単に出逢うことができるのが八重山諸島の中でも石垣島・西表島。今回は両島のうち西表島を捜索する事とした。
さて、このサソリの仲間たちも4億年以上前からの同形態を維持して、現在も生息している生きた化石である。我々人間より地球上の大先輩であるので敬意をもって挑みたい。
フェリー乗り場脇に設置された看板には、西表島で逢うことができる魅力的な生き物や植物が紹介されている。また、多くのイリオモテヤマネコの像や看板、そして、シーサーも出迎えてくれる。
マダラサソリを探す。
マダラサソリはクモ綱サソリ目キョクトウサソリ科に属するサソリの一種。東南アジアからオーストラリアにかけて広く分布している最大でも6㎝程の小型なサソリである。体表のマダラ模様が名前の由来だ。
毒性は非常に弱く、刺されても重度の症状はでないという。海岸沿いの乾燥した倒木や石の下だけでなく家屋周辺にも生息している。
海岸沿いの古い民家は琉球列島独特の瓦を使用している。台風などで損壊することもある様で、庭には予備の瓦が高確率で積んであるが、この瓦の隙間こそが彼らの格好の生息場所となっている。海岸沿いに投棄された瓦群を発見。一枚一枚丁寧に捲っていった。
その瓦の脇の倒木にはマダラサソリの大好物であるシロアリを発見。いよいよマダラサソリが近いぞ!
全長5㎝程だろうか。マダラサソリを詳しく観てみよう。
頭部中央にある2個の目が光を感知し、更に頭部側面には左右それぞれ3個、計8個の目を持つ。更に全身を覆う感覚毛で臭い・振動などを感知する。
また、マダラサソリは交尾を行わない。発情期にオスメスは絡み合うが、その際、オスは精子の入った精包を地面に置き、メスがその精包を体内にとりいれることで数回の産卵が可能となる。
そして、サソリの類は胎生で、卵ではなく、子供を産むが、一度の産卵で10匹~20匹の子供を産み、母親が背中に背負って子供達を育てる。まさに少子高齢化に悩む日本が羨むような子沢山の繁殖システムである。
サソリの毒が猛毒と言うイメージだが、実際、人間を死に至らしめる程の毒をもつ種は然程多くない。このマダラサソリもまた、微弱な毒しか持たず刺されても大事にはならないであろう。
それ以前に、彼らの毒針は人間の手の皮を貫けないほど小さい。滅多刺しにしてほしいと言う僕の希望は、ここで儚くも投棄された瓦の様に砕けた。
何れにしても、微弱な毒性ながら、ひっそりと生きながらえている彼ら。その毒は思春期の娘から放たれる毒舌と比較すると、僅か2%程の毒性ではなかろうか。
*このマダラサソリはキョクトウサソリの仲間。キョクトウサソリは特定外来生物にも指定されている。在来種でありながらも迂闊に採取、移動、飼育をすると罰せられる可能性もあるので、くれぐれも注意いただきたい。
ヤエヤマサソリを探す。
一方のヤエヤマサソリは、比較的内陸部の森林倒木内の隙間やその下に生息する事が多い。瓦に続いて倒木をひっくり返しては戻していく。
木の皮を剥ぐのは彼らの生息場所を著しく奪ってしまうので、剥ぎ過ぎにはくれぐれも注意いただきたい。
ヤエヤマサソリはクモ網サソリ目コガネサソリ科のサソリ。日本の八重山諸島と東南アジア・オーストラリア北部などに生息している。大きさは3.5㎝程が最大で、マダラサソリと比較すると短く太い。
また、ヤエヤマサソリはサソリの仲間でも珍しく単為生殖をおこなう。つまりメスだけで子供を産むことができる訳だ。
生まれた子供たちはマダラサソリ同様にある程度成長するまで母親の背中に張り付いて過ごす。
倒木をめくると、早速極小のヤエヤマサソリが現れる。母親の背中から離れて独り立ちして僅かと言ったところか。
上記したようにメスが単為生殖をおこなうヤエヤマサソリにはオスはほぼ存在しない。
マダラサソリ同様、頭部に8個の目と全身に感覚毛を感覚器官として持つ。平べったく暗褐色のボディが素敵すぎて格好良いサソリだ。
ただ、小さい事を除けば最高だ。
毒針部位のみ薄茶色。毒針を精一杯にアピールしている様だ。微弱な毒性にもかかわらず健気。
八重山諸島で観られる2種のサソリたち如何でしたでしょうか。採取や観察のターゲットが不足する冬のこの時期、南の島にサソリたちを探しにお出掛けしてみては?
某有名歌手がサソリに纏わる歌で『サソリの毒は後から効くのよ♬』と歌っていたが、貴方も貴女もじわじわとサソリ達に逢いたくなってくる筈…..
ヂルチFielderのyoutube でも2種のサソリを紹介しています。
下記よりご覧ください。
【沖縄】日本でサソリを捕まえて刺されてみる【八重山】