ファーストコンタクト編
2016年インドネシアにヤマアラシが生息しているとの情報が入り、飛行機に飛び乗った。猟犬を連れて村人たちとジャングルに立ち入ったが、泥まみれ、汗まみれになっただけでヤマアラシの姿を拝むことはできなかった。先ずは、川筋の崖に点在するヤマアラシの巣穴を見つけることから始まる。穴周辺に足跡や糞を探し新しい巣穴を探し出すことが成功の鍵となる。
巣穴を見つけたら煙で燻す。そうすると、いくつもの巣穴から煙が湧き上がってくる。その巣穴の入口を一つだけ残し、残りを大きな石で埋める。つまり地中でつながっている巣穴から地上に逃げ出す箇所を一つにしてしまう訳だ。
残された巣穴からヤマアラシが飛び出してくるのを、猟犬とエアライフルをかまえてひたすら待つ。結果は‥‥無念。ボロボロになった私はその場に座り込んだ。私はリベンジを誓い、インドネシアのジャングルを後にした。
ヤマアラシとは
ヤマアラシ「山荒らし」という名の通り、木の根や根菜を主食とし食欲旺盛。其の食欲は木を枯らしてしまい、森の木々を減少させてしまう事からついた名前。
今回訪れた村でも村人が大事に育てた芋類などを食い荒らしており、駆除対象となっている。同時に貴重なタンパク源として村人は昔から食べていたそうだ。
また、ヤマアラシはアジア・アフリカに生息するグループとアメリカ大陸に分布しているグループに二分されているが、この2グループに共通する特徴としては、日中の殆どは地中に掘った巣穴で休み、夜間は餌を求めて歩き回る。そして、背中から尾にかけて体毛から進化した棘に覆われており、この棘を使って捕食者から身を守る。さらに攻撃に転じることさえもできる。などがあげられる。
リベンジ編
2019年8月。仕事で再度訪れたインドンネシア。現地での休日にあわせ、山奥の村へと向かった。村人たちは数年前にヤマアラシを捕獲失敗し、落胆し帰っていった日本の中年男性を覚えており、私を歓迎し、数人の男達がヤマアラシ捕獲大作戦に快く加わってくれた。
バリ島の北部。山奥にある長閑な村。村民は農業で生計を立てている様だ。
とても静かで素朴な生活を送っており、観光地で栄える海沿いの喧騒の街とは大きく相違する。
村人たちはすっかりヤマアラシが獲れるつもりでいるらしく、付け合わせの野菜を用意してくれていた。大量の唐辛子と『バワン・メラ』という小さな赤玉ねぎだ。この時点で激辛料理が振舞われることは確定していた。
日が暮れ、村から続くジャングルも漆黒の闇に覆われようとしていた。私を含む6名は暗闇のジャングルに入っていった。
村人の中でも屈強な男達を厳選。物凄いスピードで悪路を進んでいく。置いていかれないように必死で後を追う。
捕獲方法は前回と同じ。巣穴を煙で燻してヤマアラシが飛び出してくるところを捕獲する方法。巣穴はジャングルを流れる川の側に直ぐに見つけることができた。
いよいよ火を焚き、巣穴全体に煙がいきわたるまで送り込む。
全ての穴を塞ぎヤマアラシの逃げ場は1か所のみ。必ず此処から飛び出してくると信じて待ち続ける。
僕等は巣穴から広がるすべての出口を確認し、火を焚き、煙を送り込む穴と入口に網を掛け待ち構える穴の2つを除いての全ての穴を塞いだ。
火をつけて15分程経った頃だろうか。巣穴の入口でもぞもぞと何かが動いた。
次の瞬間、巣穴から何かが物凄いスピードで飛び出したかと思うと網をすり抜けて走り去ろうとした。
僕等6名も騒然となりヤマアラシがすり抜けたネットを剥がしヤマアラシを追う。
ヤマアラシも大慌てで他の巣穴に逃げ込もうとしたが、その穴は既に我々によって塞がれていた。巣穴の前で戸惑うヤマアラシをネットで抑え込んで勝負ありとなった。
棘の攻撃を何とか防ぎながら遂に捕えたヤマアラシ。運よく負傷者はでなかった。
体毛は全体的に硬いが、背部からお尻にかけての棘はもはや凶器。ハリネズミの棘とは比較にならないほど太く長い。
小さな尾の先端まで細かい棘で覆われていた。
調理・実食編
想像していたよりも可愛い顔立ち。若干の躊躇を感じたが四肢を縛り村に持ち帰った。村の女性達はお湯を沸かし、米を炊き、そして庭に実っていたジャックフルーツを収穫して待っていたが、僕らが到着してヤマアラシを手にしていることに気付くと歓声をあげた。庭に実るジャックフルーツ。スープに入れると言うが、果物入りスープとは果たして?
辺りは完全に日が暮れ、村から漏れる僅かな明かり以外は漆黒に包まれたが、村人達は調理を行い、そして宴へと進んでいった。
先ずは赤玉ねぎ・唐辛子・にんにくを用意。唐辛子多いね!
山荒らしのお肉と合わせて準備完了。
男達はひたすら包丁で叩く。
叩き終わり具材がしっかり絡み合ったら細かく切ったジャックフルーツと炒める。
同時にジャックフルーツとヤマアラシのお肉を煮込んだスープも完成。
2品のヤマアラシ料理が完成した。
完成したヤマアラシ料理。全くと言ってよいほど嫌な臭みはない。身もしっかりしていてかなり上質なお肉だった。今まで食べてきた獣肉の中でも、かなり上位にランクインする程であった。齧歯類がこれほど美味しいとは、かなり驚きだ。
またジャックフルーツも火を通すと芋類に近い味と食感でお肉料理との相性抜群であった。村人たちも上機嫌で美味しい料理に舌鼓を打ち。お酒も振舞われて、異国から来た変わった客人を取り囲み宴は明け方まで続いた。
余すところなく頂いたありがたい命。美味しく頂きました。ご馳走様でした。
気付くと辺りは明るくなり、宴もたけなわとなりました。
村人達は酔ってふらつく私に「次は大きなトカゲを捕まえるからまた来いよな!」と見送った。