『潮干狩りの聖地とも言われた江戸川放水路。アサリ、アナジャコ、マテガイ昔は沢山採れたものじゃが…』江戸川河口のあぜ道で出逢った老人は寂しそうに川を眺めていた。
いつしかこの場所での潮干狩りの主役は、外来の貝ホンビノス貝に代わり。そして今やホンビノス貝も数を減らし、干潟の主役はオキシジミと化している。
アサリやマテガイが減り、潮干狩りのメインターゲットとなったホンビノス貝。大きな貝で、味も形状もハマグリに似て美味しい。以前は容易く採ることができたが、徐々に減少傾向にある。
オキシジミ(Cyclina sinensis)とは
名前の通り貝殻の形状がシジミに似ている。つまり比較的沖に近い河口・汽水域に生息しているシジミと言う事でこの名前が付いた訳だが、オキシジミはシジミ科の仲間ではない。
汽水域や河口付近の泥質に生息している貝で国内市場に流通していることは稀。ネットで食レポ記事を目にすることはあるが、ケミカル臭・美容院のパーマ液の香り・はたまた厚化粧の香りなどと、凄まじい感想が羅列されている。しかし、このオキシジミ、お隣韓国では普通に食べられていると言う事。下処理・調理の方法によっては美味しく頂ける筈。そう信じて、真冬の江戸川放水路へ向かうことになった。
いざ採取
さて、冬の江戸川放水路。飛び切り冷たい風が吹き付ける。何もこんな寒い時期に潮干狩りに来なくてもとは思うのだが、この真冬の時期は魚類やその他の生き物関連もネタ不足。この時期に採取欲を満たしてくれる貴重なターゲットである。干潟には一人のご老人を除いて誰もいない。完全に『密』を避けた状態となった。
河原沿いの遊歩道から茂みを下りて干潟に入る。場所によって泥質の場所にはまることもあったが、比較的歩きやすい。長靴でぎりぎり問題ないレベル。早速採取を開始すると….
『大判小判がザックザク』並みに泥の中から出てくるオキシジミ。30分も掘っただろうか?あっという間に採取は十二分な成果と共に完了した。
泥抜き
さて自宅に持ちかえったオキシジミ。江戸川の河口を流れる水も若干の濁りがあったが自宅まで持ちかえったときには、その川の水とオキシジミをいれたバケツは強烈な泥水と化していた。
流石にあの泥の中で生まれ育った貝達。しっかりと泥を身に蓄えている訳だ。しっかりと数日掛けて泥を吐かせることとなる。
約3%の塩水を作り、浅いトレイに行儀よく重ならないように並べ、塩水は貝が水管を出せる位の深さで朝と晩2回の水替えを行う。3日この作業を繰り返した後、当初は直ぐに泥で汚れていた塩水も徐々に泥が減り、3日目には殆ど汚れることがなくなった。
そして、採取後3日目の夕方、遂に調理に取り掛かることになる。
時間をかけて泥抜きをした後、調理前に最終工程。約50度のお湯に15分程浸ける。その後、冷水でよく洗い、いざ調理開始となる。
調理&実食
前述したオキシジミの匂い。如何なるものか?期待と不安が膨らむ中調理を始める。5品に挑戦する。
①オキシジミの酒蒸し
プルプルの身と潮の香りが引き立つ一品。普通に。いやかなり美味いぞ!オキシジミ。
②オキシジミビアンコ
ボンゴレ(アサリ)の代わりにオキシジミを使用したパスタ。オレンジ色のオキシジミの身が食欲をそそる。ニンニクとの相性も良い。
③オキシジミのアヒージョ
3品目ともなるとオキシジミに何の抵抗もなくなる。普通の上質な貝料理を堪能。
④オキシジミのパエリア
〆にパエリア。丹念に泥抜きを行ったことが功を奏し、美味しく完食するに至った。
⑤素材の風味を存分に味わう韓国風スープ
オキシジミ200gを弱火で煮詰めアクをしっかり取り除く。オキシジミが恥ずかしそうにオレンジの身を覗かせたら、酒小さじ2と細かく切ったニラと胡麻を投入。白濁したスープと貝の香りが漂うシンプルながらに至高の逸品?の完成だ。アサリやシジミの汁物にひけをとらないぞ!!
アサリの不漁が続く昨今。その代用品としてオキシジミをアレンジして使用するのも面白いのではと思わせる5品だった。勿論アサリの漁獲量がまた増えるに越したことはないのであるが….
因みに夕食後、鍋田家のリビングに微かな厚化粧の匂いが漂ったことを最後に追記しておく。