一番大きい。一番重い。一番綺麗。一番強い。
一番ってホント響きが良い言葉だよな。
今回は、日本で一番高い場所に生息する魚を探したお話しだ。
日本で一番標高の高い川に棲む魚
魚が棲息できる限界深度って何mだろう。ふとした瞬間にそんな疑問を抱いたことがある。
水深8336m。かの有名なマリアナ海溝。そこにはスネイルフィッシュとやらが棲息しているらしい。
僕の財力と人脈、そして価値観では釣りに行けそうもない。まさに世界一の一番。
目標なんて、自分の興味の範囲内、自分の身の丈にあったものに設定すれば良いって僕は思っている。
ちょっと現実的なとこまで目線を下ろしてみよう。国内で一番深い場所。小笠原沖9801m。
小笠原なら世界一を更新できるかもしれないぞ。ケド、膨らむ想像と行動力が比例しないところに、今の僕の価値観が深海に向いていないのは明らかだった。
でも、きっといつか、機会があれば小笠原の深海に釣り糸を下ろしてみたいと思っている。
じゃー。反対に。日本で一番高い場所に棲んでいる魚って。きっと、僕の大好きなあの魚でしょ。どこの山だろう。そして標高は何mだろう。
イワナが棲む日本最高所の川“黒部川”
“日本最高所”と“イワナ”という検索ワードで探すと、いとも簡単に『北アルプス/黒部川源頭』という答えが出てくる。
すこし捻くれた心で黒部以外はどうなのだろうと、南アルプスも含めて色々と調べてみるが、ネット上に確固たる情報はない。もちろん地図上では、もしかしたら……、黒部源頭よりも高い場所までイワナがいるのでは。そんな期待をくれる沢もあるが、今回はストレートに黒部川源頭部を目指すことにした。
黒部川源頭部
黒部川は富山県と長野県の県境である鷲羽岳(2924m)に源を発し、日本海へと流れる延長僅か85kmの一級河川だ。
流域の約80%が山岳地帯であり、年間降水量は約4000mm。これだけの数字が並べば誰でも日本トップクラスの急流河川というイメージが湧くだろう。
そんなとんでもない斜度を誇る黒部川の天辺に棲むイワナを釣ろうとなると、さぞ沢登りが大変極まりないと想像するのだが。実はそうでもない。
鷲羽岳を始めとする北アルプス周辺は、登山のメッカ。管理された登山道が敷かれ、僕のような釣り人でも天候さえ恵まれれば、いつもの源流釣りと比べて簡単に行くことができた。あくまでも、危険個所が無いことや道を探す必要がないって意味で。
単純にアプローチだけやたらと長い。難易度と辛さは別の話しだ。
2泊3日の黒部川源頭釣行
黒部川源頭部までのルートを調べてみるといくつかあるのだが、効率重視の僕は、新穂高温泉から歩き始めた。
片道約18km、標高差約1500mの道のりを1日かけて登り、鷲羽岳の直下に位置する三俣山荘テント区画に泊まった。
有名登山道を始めて歩く僕にとって、この登りは結構辛かった。幸せなことに7月末の晴天無風の休日ということで、気温が高く、登山者も多く、精神的にだいぶ過酷であった。せっかく山に釣り行くなら人には会いたくないというのが僕の本音だ。
そうそう、ジャングル泊が大好きな僕にとってキャンプ場にお金を払ってテントを張るというのも初めての経験であった。
というのも、黒部川周辺はテントを張って良い場所が決められているようなのだ。
郷に入っては郷に従います。ルールはルール。喜んで守ります。ということで、黒部川源頭部から僅か1kmのキャンプ場を利用したわけだ。
秘境感を出すために人が写らないように写真を撮ってみたのだが、実は周りには沢山の登山者がいる。
これでも空いているというのだから驚き。連休ともなればギューギューらしい。
因みに、テント泊は1泊2000円。山荘では500mlのコーラが1本700円で買える。
お金で物が買える環境に甘えて、1日1本即ち3本もコーラを買ったことはココだけの秘密にして欲しい。
僕は捻くれ者
本当に黒部川源頭部がイワナの生息場所として日本最高所なのか。
捻くれ者の僕はこうして釣行記を書きながらも、どこかに黒部源頭よりも高い場所がないかなって期待していたりする。
そんなこんなで、当初の予定を変更して、兼ねてから気になっていた黒部川水系の別沢から釣ってみることにした。
期待とは裏腹に、僕が気にしていた別沢は標高2300mを最後にイワナの姿が消えてしまった。
勿論、釣り切れなかったり、走ったイワナを見逃したりしているのかもしれないけれど。
特筆すべき魚止めは無かったのだが、明快に2300m付近を境にして魚影がパタっと消えた。
2400m台にもイワナが棲息するという黒部源頭部に比べれば低い結果となった。
黒部川源頭へ
今日は釣り具だけの軽身だったので歩が進む。ただ、相変わらず登山道には当たり前だが登山者の方々が多く、特に黒部源頭部は登山道から丸見えなので不思議な感覚だった。
黒部川水源地標と書かれた地点から入渓し、釣りを始めてみると1投目でイワナが掛かってきた。
この時点で標高は2393m。すでに午前中に探釣した沢よりも90mも高いので驚きだ。
幸先良好だったが、ここからまさかの大苦戦。こんな遠い場所まで歩いて来たからには入れ食いかと思いきや、チェイスの割にヒットしない。毛鉤は無視。上流に雪渓が残っていて水温が極端に低いとはいえ、食いが渋い。
そう、認めたくなかったが、この日の黒部源頭のイワナ達は完全にスレていた。
河原には明瞭な踏み跡がある。昨日…もしかしたら午前中のものかもしれない。さすが日本最高所。聖地黒部川。少なからず、入渓者がいるのは明白だった。
標高2430m付近のミニゴーロが魚止なのか
泳ぐ魚の量の割に、ヒットは少ないもののポツポツ拾い釣っていくと、標高2430m付近で小規模なゴーロになっていた。
第一印象では魚止になるとは感じなかったが、午前中の別沢では魚止がなくても魚が消えたので、ここが最後かもと集中して釣った。
釣れたのは1匹だけだったが、狭い溜まりに10尾以上のイワナが群れていた。
日本最高所のイワナ
ミニゴーロは条件さえ整えばイワナが超えていけそうな雰囲気であったが、やはりゴーロを境にして魚影がパタっと消えてしまった。
踏み跡がゴーロを超えた少し先で登山道に上がる形でついていたことからも、2430mのミニゴーロが一定の魚止の役割を果たしており、大方の釣り人もここを境に退渓している様子が伺える。
もちろん、ここで退渓せずに時間が許す限り丁寧に釣りながら遡行してみた。
雪解け水のせいか水量だけみればいつイワナが釣れてもおかしくない状況が続くので期待していたところ、この沢に来て一番大きいと感じる真っ黒な魚影がルアーに突進してきた。
アッと!思った瞬間には掛かっていた。どてっぱらに。そう、所謂スレ掛かりだ。この際、釣れ方に拘りなんてないから何でもOK。気になる標高は2455mであった。
この後、標高2500mを少し超えたあたりまで丁寧に釣りをしたが、結局今回の釣行で僕が魚と遭遇した地点としては、2455mが最高所となった。
とは言え、イワナは沢を上ったり降ったりする生き物なので、水量や水温によってはもっと上、もしかしたら2460~2500mくらいまで生息場所として利用しているかもしれない。
そうそう、標高はジオグラフィカというアプリで計測したものなので、幾らかの誤差はあるはずなので悪しからず。
長い帰り道でフッと感じたこと
人の気配の多い北アルプスの登山道が僕は苦手だったけど、この道を作って整備してくれている人たちのお陰で、僅か2泊3日という短い日程で黒部川源頭部に立ち、釣りをすることができたのだから感謝せずにはいられないなと帰り道を歩きながら感じた。
そして、目標を綺麗さっぱり失いたくない捻くれ者の僕はこう思う。
黒部川源頭部が本当に魚の生息する日本最高所なのか僕には分からないし、他にも地図上では2400m付近にイワナがいそうな沢もある。
またいつか。2400mを超える沢に気が向いたら登ってみようと思っている。
距離52.6km 累計高度4728m
2泊3日の釣行で歩いた距離だ。非力な僕にしては頑張って歩いたと感じたので自慢げに数字として起こしてみた。
今回は日本最高所という単語に拘ってみたので、黒部川のイワナの魅力を書き記す余裕がなかったが、それはもう…。
胸鰭が大きくて、黒くて、白斑が控えめで。めちゃくちゃにカッコ良かった。
こんなことを書いてしまったら本末転倒なのかもしれないが、黒部川のイワナ達がカッコ良すぎて、日本最高所とかもはやどうでも良くなるほどだ。
この形、この模様のイワナを釣るために連休使って歩いてくる価値あるなって素直に感じた。
ホントに。イワナフリークなら一見の価値がある魚たちだ。