『赤ちゃんはどうやって生まれてくるの?』純粋な鍋田少年は、ニヤニヤしながら父親に何度も問いかけていた。厳格な父親は、ひたすら聞こえないふりをとおしていたが、優しい母親は『コウノトリさんがね…..』と答えてくれたものだ。しかしながら、1970年代に関して言えば、この優しい母親の言葉は嘘になってしまう。何故ならば1971年に、日本にいた自然下のコウノトリは絶滅してしまったのだ。もう二度と、赤ちゃんを運んでくるコウノトリが日本の空を舞う姿は観られない…そう鍋田少年は思っていた。
コウノトリとは
全長は1m程度。翼を広げると2mの大型の鳥類。体重は5㎏程度なので大きくて細い鳥の印象。魚類・カエルや昆虫を主食とする肉食で、大きな身体を維持するために、一日に500㎏以上の餌を食べるという。
また、成長したコウノトリは鳴くことがない。くちばしをカスタネットの様にたたき合わせることによって、カタカタという音をだすクラッタリング行為を行い、縄張りを主張し威嚇行為を行う。
生息域はロシア・中国・朝鮮半島・日本に2000羽程度生息していると推測されていたが、日本にいた野生のコウノトリは、上記したように1971年に全滅した。
その原因は、狩猟・コウノトリが餌をとる環境の変化・森林の伐採による産卵場所の減少などが考えられている。
その後、2005年から人工繁殖されたコウノトリの放鳥が、兵庫県豊岡市を中心に行われ、現在では全国各地でも飛来が確認される状況となっている。しかしながら、国内に留まる留鳥のコウノトリは現在100羽程度と推測されており、まだまだ予断を許さない状況ではある。
コウノトリに逢いに行こう
関東圏にも飛来が確認されているコウノトリ。千葉県の野田市の『こうのとりの里』では人工飼育・放鳥も行われている。今年放鳥したコウノトリはタイミング(早朝・夕方が多い)によっては戻ってくることもあるようだ。
早速カメラを担いで、開館前の朝5時から現地に入った。
飛来したコウノトリ達を観察するのには、下記のルールがあるようだ。
●観察・撮影する場合は150m以上離れる。
●ストロボやライトの使用禁止。
●追いかけたり、驚かしたり、大きな音を出さない。
●餌を与えたりしない。
●近隣の田圃の農作業の妨げにならないようにする。
●車両で観察する場合は交通ルールの順守。
とはいっても、肝心のコウノトリは依然現れないのであるが…
こうのとりの里近郊は、ビオトープや江が整備されており、コウノトリの餌になる小型の魚類やカエルなども住みやすい環境が整っている。前日の雨の影響か、畦道にはアメリカザリガニが這い出ていた。コウノトリ達には、率先して食べていただきたい外来種だ。
また、放鳥したコウノトリ達が戻って来て産卵できるように、人工巣が設置されている。巣作りはどうやらまだ行われておらず未使用のようだ。
その後も姿をみせてくれるのは、クロサギのみ。
そろそろ『こうのとりの里』の開館時間だ。職員の方々も出勤されてきた。
女性の職員を見つけ、すかさず声を掛けてみる。その方の話だと、なんでもコウノトリは3週間ほど姿をみせていないようだ。
私:『そうなのですね。アオサギの姿は見えるのですが今日も駄目そうですね』
女性:『そうですね。もし近くに来れば、くちばしを叩き合わせる音が聞こえますよ。結構大きな音なのですぐにわかります。』
私:『クラッタリングですね』
カタカタ・カタカタ…….
女性:『そうそう、この音です』
私&女性『ん?ん?ん?!あぁ!あそこにいますね!!』
電信柱と工場らしき建物の屋根に2匹。コウノトリは現れた。滅茶苦茶運が良い。
その後、更に幸運が続き、施設の前の田圃に舞い降りたかと思うと、餌を探し始め、暫くの時間その田圃に留まってくれた。600㎜の望遠レンズを使用し、ひたすらシャッターをきる。
2個体とも足に足輪が付いている。放鳥された個体のようだ。想像以上に大きく、そして格好良い鳥。
鍋田少年が見ていた、赤ちゃんを運んでいる挿し絵の姿とは一味も二味も違う。
コウノトリは、大陸から偏西風に乗って渡ってくることは稀にあるが、偏西風に逆らって大陸に渡るケースは殆どないそうだ。その為、日本国内のコウノトリ達は留鳥となり、日本国内で生息し続けるケースが殆ど。いつの日か、放鳥されたコウノトリ達の子孫や、大陸から新たに渡って来たコウノトリ達が飛び交う姿を眺めたいものである。
我が家では、やっと子育てを7割終えたところだ。コウノトリが舞い降りない事を祈りたい。