イワナの世界へようこそ Vol.1はこちらから
今回の記事では、イワナの世界へようこそVol.1で紹介したミヤベイワナと然別湖をご紹介したい。
この地球上で北海道の然別湖(しかりべつこ)にしか生息しないミヤベイワナ。
希少な生き物は、“人との交わりを断絶させて厳重に守る”という風潮が蔓延る現代において、然別湖は希少種を釣り上げることを前提にした釣り人に開放される珍しいフィールドだ。
火山によって川が堰き止められて誕生した堰止湖
北海道河東郡鹿追町と同郡上士幌町に跨る然別湖は、約一万年から三万年前に発生した火山の噴火によって川が堰き止められて誕生した周囲13.8km、最深部108mの自然湖だ。
然別湖は北海道で最も高い標高810mに位置する湖としても知られ、今回ご紹介するミヤベイワナ釣りだけでなく、カヌーやカヤック体験、然別湖氷上コタンまつりなど自然派観光客に人気な湖となっている。
北海道の天然記念物“ミヤベイワナ”について
火山によって堰き止められる前の川には、海と川を行き来するオショロコマというイワナの仲間が生息していた。しかし、ある時、川が堰き止められ、谷が水没したことにより“浅くて狭い環境”から“広くて深い環境”に適応するためにオショロコマは本来の生態の変更を迫られた訳だ。
渓流のような浅くて流れのある環境で主に虫を食べていたと考えられるオショロコマは、川と比べて深くて流れの少ない湖で生き残るために、鰓耙(さいは)と呼ばれる器官を増やして適応したと言われている。
魚が獲物を捕らえるにあたり、鰓耙は例えるなら網のような役割を果たす訳だが、鰓耙数を増やすことで、より微細な餌を鰓耙に引っかけて食べることができるのだ。
川から湖に環境が変化したことによって大量に発生した動物プランクトンを主食として利用するためにミヤベイワナがとった生存戦略と考えられている。
因みに、オショロコマの鰓耙数は21-22程度、ミヤベイワナは26前後とされており、ミヤベイワナは世界で然別湖にしか生息しないオショロコマの固有亜種となったのだ。
このような希少性を踏まえて、北海道はミヤベイワナを天然記念物に指定し、環境省は絶滅危惧II類としている。
希少種“ミヤベイワナ”を釣ることが許される然別湖
“天然記念物”や“絶滅危惧種”というキーワードを目にすると『釣ったり捕まえたりしてはいけない生き物』というイメージを抱いてしまいがちだろう。
ところが、現在の然別湖では希少なミヤベイワナを釣ることが許されている。
あくまでも僕の個人的な意見であるが、“希少種=捕獲禁止“という安直な方法ではなく、”希少種と一般人が交わる機会“を残しながらミヤベイワナの生息数を管理している鹿追町の活動や制度を支持したい。今でこそ、機能しているこの活動は過去にトライ&エラーを繰り返しており、町や関係者の苦悩や努力があってこそ成り立っており、遊漁者として感謝、感謝、感謝である。
近年、続々と増えていく希少種の捕獲禁止や周年禁漁区の設定といった簡単で金のかからない方策を取る前に、然別湖が取っているような制度をモデルケースに一般人も自然環境下で希少種と触れ合える方法を検討していただきたいものだ。
因みに、然別湖も全面禁漁の時代を経て今の特別解禁がある。一度禁漁や採捕禁止の措置が取られると解禁されることが殆どない日本において、資源量の増減を考慮しながら柔軟に禁漁と解禁を繰り返してきた珍しい歴史が然別湖にはある。
厳格なルールのもとで楽しむ然別湖のミヤベイワナ釣り
現在の然別湖では、鹿追町から業務委託された特定非営利活動法人 北海道ツーリズム協会により「然別湖特別解禁『グレートフィッシング in 然別湖』」と題して、年2回の遊漁解禁がされている。
因みに、2022年の解禁情報や主なルールは以下の通りであり、人数制限を設定した完全予約制のため事前にwebか電話で予約する必要がある。然別湖の近くを通ったから行ってみようといった軽い気持ちでは実釣できないので注意が必要だ。
・解禁期間:2022年5月26日から6月27日および9月16日から10月2日
・人数制限:1日あたり50名
・遊漁料(フィッシングライセンス):4190円
・釣法:ルアーおよびフライフィッシングのみ
・針:シングルバーブレスフックのみ
・ミヤベイワナに関してはキャッチ&リリース
・釣った魚は調査項目にしたがって調査用紙に記入し遊漁終了時に提出する
他にも細かなルールが設定されているので、詳しくは『グレートフィッシング in 然別湖』のHPを参照されたい。
憧れの魚“ミヤベイワナ”を求めて然別湖へ
僕は6月下旬に然別湖を訪れたのだが、残念なことに水温の上昇によりミヤベイワナの活性は低く苦戦した。ミヤベイワナを釣ってみたい方は、表層でミヤベイワナを釣ることができる6月上旬までに釣行されることをオススメする。
因みに秋の解禁期間は気温と水温が変動しやすく、釣りやすい日と難しい日が日替わりとのことだった。
それでは最後に、少しばかり僕の実釣体験を振り返ってみよう。
手漕ぎボートでトローリングが効果的だった
グレートフィッシング in 然別湖のHPで毎日更新される釣果情報を見て、僕の実釣日直前はミヤベイワナの釣果が低迷していることを知っていたのだが、受付で近況や釣り方を尋ねてみると、直近2日間でミヤベイワナは全く釣れていないとのこと…。例年、水温が上がってくる解禁終盤はニジマス狙いのアングラーが殆どでミヤベイワナ狙いは厳しいと正直な情報を頂戴した。
そんな状況下でも、『ミヤベイワナにターゲットを絞ってトローリングすればきっと反応はあるはず。深度15~20mを狙ってみて欲しい』とアドバイスをもらえたので、終始手漕ぎボートを漕ぎまくった。然別湖では動力船の使用は禁止なのだ。
100m以上ラインを出してトローリングするとミヤベイワナが連続ヒット
アドバイス通り深場を狙うために、14gのスプーンを20mまで沈め、船を漕ぎながらさらに100mラインを出して湖の中心部を探っていく。一般的な釣り方ではないが、こうすることで深度15mより深い場所をレッドコアラインやダウンリガーを使わずとも狙うことができる。リールに200mも細いPEラインを巻いておいて良かったと思いながらひたすらトローリングをしていると念願のミヤベイワナを釣り上げることができた。
図鑑でしか見たことが無かった希少なミヤベイワナを実際に自分の手で釣り上げることができたことに対してとても感動した。やはり、本や水槽の中ではなくて、本来の生息環境で出会う魚は格別だ。素早くサイズを計測し、個体の状態をチェックして野帳に記録しリリースする。中には釣り針によって受けたと思われる傷を持ったミヤベイワナもいて、キャッチ&リリースの効果がしっかり出ていると実感することができた。
然別湖のような制度は全国的にとても珍しいケース
希少種と関わりたいと願うのは一部の専門家や研究者だけではなく我々のような一般人も同様だ。然別湖の場合は調査員といった形で一般人もミヤベイワナと触れ合える訳だが、他の希少種はそうはいかない。
然別湖のように何等かのかたちで自然環境下に生きる希少種と触れ合える制度が日本各地で作られていくことを期待したいものだ。
今回の釣行は怪魚ハンター山根ブラザーズの公式YouTubeチャンネルで配信中