川の天辺。いわゆる源流部は魚が暮らすにはあまりにも過酷な環境だ。ゴギと呼ばれるイワナを求めた今回の釣行で、イワナの辛抱強さを改めて実感した。
2022年真夏。発信器をつけたアカメの追跡調査のために高知県を訪れた
今年の夏はとにかく熱い。大都会関東平野は連日35℃以上を記録し、NHKの外枠は常に『熱中症に警戒』という情報が流れている。そんな猛暑続く大都会を出発し、アカメの調査の為に高知県を訪れて驚いた。なんと海風当たる高知県の方が、東京より涼しく感じるのだ。
発信器を取り付けるためのアカメを釣ったり、受信機をメンテナンスしたり、調査にご協力いただける人や機関に挨拶に伺ったりと、調査中はとても忙しい。寝る暇など皆無。因みに、船で移動する間にウトウトと仮眠を取るのがコツだ。
そんな大忙しのアカメの調査は順調に進み、今回も良い結果が得られて無事終了した。
魚類生態調査が大好きなのは勿論のこと、学生たちと一緒にフィールドに出るのも大好きで、今もこうして調査に参加している。
さてさて、今回の記事の主題であるゴギに話しを戻すとしよう。
せっかく高知まで車で自走してきたのだから、調査の予備日を使って帰りは寄り道しようと目論んでいた訳だ。
中国地方に生息するイワナ『ゴギ』
寄り道相手として僕が選んだ目標は、中国地方に生息する『ゴギ』と呼ばれるイワナだ。頭部まで白斑があることがゴギの特徴であり、呼び名の由来は諸説あるが、韓国語で「魚」を意味する「물고기」(ムルコギ)に由来すると言われている。
白斑の大きなゴギを釣ってみたい
一言にゴギと言っても、沢ごとに様々な模様がある訳だが、今回僕が興味を持ったのは、朱点が無く白斑がとても大きなゴギだ。
ネットという便利グッズを頼りに、白斑の大きなゴギが生息していそうな地域に目星を付けて、道の駅で久々にまとまった睡眠を取った。
昼からの入渓となり焦る
連日不眠不休でアカメを追いかけた疲れが祟り、当日の朝、思いっきり寝坊をしてしまった。一度も起きることなく、10時間も車で寝てしまったのだから自分でもビックリだ。
入渓を予定していた沢の上流部は諦め、一気に歩いて源流部に入渓することに決めた。
真夏の低山は、植物と虫たちの楽園だ。纏わりついてくるアブに一人発狂しながら源流部を目指した。
沢へのアプローチはちょっとした笹薮への特攻を余儀なくされた。
背丈より遥かに高い笹薮をかき分けながら降り立った沢はなんと…
沢床に水が無いぞ!
伏流しているのか、それとも大渇水なのか、とにかく現実問題として河原に水が無かった。
この状況を見て、今日は沢山釣れる楽しいイワナ釣りにならないことは明白だった。そもそも、この沢にイワナが生息しているのかも怪しい。かと言って、車を駐車した下流域では放流があるかもしれないし…。
迷った挙句、笹薮を戻り、少し山を降った地点で入渓してみると水こそあるものの、流れは弱々しく川底は泥が体積し少々ヘドロ臭がする。
お世辞にもイワナが好むような環境とは言えず、この辺りに多く生息するタカハヤすら走らない。
伏流の先に行ってみよう
寝坊したせいで時間が足りない中、車道が走る区間で釣るか、ダメ元で伏流区間を遡行してみるか悩んだ。
出した結論は枯れた沢を登ること。きっと、綺麗な水が復活するはずだ!
再び笹薮に突入し、枯れ沢を登ってみた。すると、すぐに澄んだ水溜まりが現れ始めた。
念のため、水溜まりにもルアーをキャストしながら丁寧に釣り上がっていくと、タカハヤが掛かってきた!
これは、もっと上流に行けばイワナいるぞ!と期待が膨らむ。
水溜まりでイワナの姿を発見
タカハヤと分かっていても、丁寧に1匹ずつルアーで釣り上げていくと、ピュンっと逃げる白い点を沢山もつ魚が確認できた。間違いない!イワナだ!いるぞ!サイズこそ10cm前後でアブラハヤと同じくらいのサイズだが、この際大きさなんて関係ない。
勾配が出てくると水流が復活
イワナを目撃した地点からほんの少し遡行すると、谷に勾配が付き始め、弱々しくも水流も出てきた。こうなれば、イワナも生息できるはずだ。真夏の渇水と高水温でイワナ達はバテバテだろうと予想してルアーをゆっくり動かしていると、やっと…。ようやくイワナがヒットした!
白斑の大きなゴギと出会う
釣り上げたイワナは十数センチの小さな個体であったが、模様は僕が見てみたかったゴギそのものだった!白斑が大きく、鼻先までしっかり模様が入っている。感無量とはまさにこのことだ。
伏流の先に生息していた白斑の大きなゴギ達
釣れるイワナの数が極端に少なかったが、この高水温と水量を考慮するともはやルアーを追ってくれること自体に凄いと感じさせられる状況であった。春先など水量の多い季節であれば、また違った渓相なのかもしれないが真夏の状況を見る限り、イワナの逞しさをつくづく感じさせられる釣行となった。