自分の体重の20倍もの重さを引くことができると言われているカブトムシ(50kgの人に例えると、なんと1000kgを引く力に!)。小さいながらも力強く、特徴的な角を持ち、アニメやゲームのヒーロー役になったりと、とりわけ子供達の人気の的だ。
そんなカブトムシの中でも、世界最大もしくは世界最重量のカブトムシを、皆さんはご存知だろうか。
今では昆虫を展示する博物館などで見ることもできるが、私が幼い頃は実際に見ることは難しく、昆虫図鑑を眺めては、憧れを抱くしかなかった、夢のような存在だ。
今回、夢のような存在に自然下で出逢った体験を、(老若男女問わずだが)特に、昆虫好きな少年少女に知ってもらいたい、
そして、生き物の多様性に興味を持ち、大人になっても生き物を大切に思い、触れることを楽しめるきっかけとなればと思い、取り上げさせていただいた。
(ちなみに、はじめの写真のイチゴヤドクガエルは有毒なので、安易に触れないようにね)
ヘラクレスオオカブト編(学名Dynastes hercules)
コスタリカは世界三大美女の国とも呼ばれている。街頭の美女探しに微かに後ろ髪をひかれたが、美女探しは早々に切り上げた。倒木に産卵する為に集まる、世界最大のカブトムシ・ヘラクレスオオカブトを探す為、グアピレスノという街へ向かった。
森に横たわる大きな倒木。木の中に住み着く小さな生命を隈なく探していく。
皮を剥ぐと木の隙間に動く何かが….『あっ!タランチュラ!?』 思わず伸ばした手を引っ込めた。
その後も何本かの倒木を隈なく探し続けると、次から次へと木の中から甲虫たちが現れた。この国の生物層の豊かさには本当に驚かされる。
アロエウスミツノカブトムシ(Strategus aloeus)
倒木から這い出てきた2種のカブトムシに引き続き、ヘラクレスオオカブトムシの雌が姿を現した。活発に動き回る雌、木の先端まで移動したかと思うと、今にも飛び去ってしまいそうな程元気である。
そして、元気に動き回る雌のヘラクレスオオカブトの写真を収めようと必死に追いかけていると、倒木の根元に一層黄金色に輝く立派な雄が堂々と鎮座していた。
遂に姿を見せたヘラクレスオオカブトの雄。その名前はギリシャの英雄ヘラクレスに由来し世界最大のカブトムシといわれる。(最長)
その体表の艶やかさと局所にみせる黄金の毛の美しさ。そして『カブトムシの王様』とまで呼ばれるだけのことはある堂々とした姿。
ヘラクレスオオカブトの前翅(ぜんし)所謂、羽の表面は湿度が高いと黒褐色だが、湿度が下がると黄褐色が濃くなるようだ。今回で逢えたのは雨期の終わりではあったのだが、黄褐色に輝く体表を観察できたのは幸運。
尻もぎっしり黄金の毛で覆われている。
撮影の間も雄のヘラクレスカブトムシはほとんど動くことはなかった。流石!勇者ヘラクレス。その堂々とした様子は人間が近づいたくらいで揺らぐことはない……
あれ!?なんだか変だ。この雄は随分と元気がないぞ。
先程まで黄金の鎧をまといし英雄にしか見えなかった雄は、どうやら衰弱していただけだった。今にも生気を失ってしまいそうである。
先程の雌の元気さとは対照的に、弱った英雄ヘラクレスオオカブトの哀愁を感じながら、昆虫達の森を後にした。
もう間もなくあの雌は、英雄の子供たちを沢山産卵することであろう….
エレファスゾウカブトムシ編 (学名Megasoma elephas elephas)
ヘラクレスオオカブトに出逢えた次の日、世界最重量のカブトムシであるエレファスゾウカブトムシを探した。
彼らはマリンチェと言う豆科の木を好んで集まるという。先ずはその木を探すために、シキーレスという街を車で走った。
暫く走っていると、レストランの敷地の一角にマリンチェの木を発見した。僕らはレストランの席に腰かけて、コーヒーを飲みながらその木を見上げた。
5m程の木だったが、少し登れば届きそうな高さに雌らしき個体を発見した。更にその上にも雄らしき個体が数匹。
最近ますます増えた私の体重。重い身体での木登りが必須となった。
雌の個体。前翅を中心に頭部以外が黄金の毛におおわれている。
触覚と口唇の間に小さいながら強靭な牙を持っており、これを使い木の皮を剥ぎ樹液を吸っているようだ。
こちらは雄の個体。雄は脚と角以外の部分を黄金の毛におおわれている。長さではヘラクレスオオカブトに劣るが、全体的な大きさと手に伝わる重みはエレファスゾウカブトムシの方が勝るようだ。200グラムまで成長する個体もいるという。
エレファスゾウカブトムシの6つの脚は、強靭で先端には鋭い爪を擁している。これはこの体重を支えて木に登るのに、おおいに役に立っているようだ。
強靭な脚は木にしっかり食い込み、中々引き剥がせない。
夕暮れまで、木に登ってのエレファスゾウカブトムシの観察は続いた。夢中になっていた私…手足には無数の蟻がたかっている事には全く気付かずに…..
私にとって最強は、世界最大と世界最重量のカブトムシではなく、夕闇の中でその存在にさえ気付かない程の小さな蟻であったようだ。
どうやら今夜も虫刺されの薬を手放せそうもない。
*この記事は2017年11月8日にMonsters Pro Shopに掲載されたリメイク記事になります。