魚釣りで海外へ渡航する人は思いのほか多かったりする。
一方で、タモ網を使ったガサガサ採集で海外へ行こうとする人はまだ少ない。
釣りはしないけど、ガサガサは本格派。今回はそんなハンターをお連れした台湾魚採集記をお届けしたい。
チルトリップ ~ Chill Trip ~
僕は海外釣行ツアーのアテンダーとしても活動しているが、今回は魚釣りの対象魚とはならないような小型魚を狙った採集のお手伝いをお願いされた。
目的地は台湾、捕まえてみたい魚は『タイワンタナゴ』、『タニノボリ』、『リザードフィッシュ』、『タイワンオイカワ(エボランス)』というリクエストであった。
今回のお客様は、魚を採らせたら天下一品の凄腕ガサ師。『生息地まで連れてってくれたら採れます!』という心強い意気込みだ。
何事も机上で行う準備が大切
まずは、台湾産淡水魚の中国語名を調べ上げていく。
次に、学名、中国語名、日本での呼び名、魚の特徴をリンクさせ、生息域を把握する。
リクエストがあった4種については、実際に採集している画像や動画を台湾人のブログやSNSから丹念に探り出し、地図アプリや動画投稿サイトを駆使して採集地点を特定していく。
ここまで、調べた情報を簡単に資料にまとめ、お客さんに提示する。
ここから先はお客さんと連絡を取り合いながら、必要な日数や道具、4種の中での優先順位やサブターゲットを確認しながら一緒に作戦を整えていく。
極寒の台湾
万が一、天候が悪化したときのBプランも含めてしっかりと作戦を作り、2泊3日で何とかなるだろうと判断し出発の日を迎えたのだが…。
案の定、2日間で60mm以上の降雨があった。それも数年に一度とも報道される超ド級の大寒波襲来というおまけつきだ。
台湾にきてまで、採集を行った2日とも最高気温でさえ10℃を超えないとは想定外。山間部では積雪もあった。
そんな天候の中、ヒートテックとネックウォーマーを着こみ、防寒対策を万全に整え、タイワンタナゴの生息するポイントへと向かった。
ガサ名人にタナゴ釣りを伝授する
得意なタモ網は一旦おいて頂き、タナゴ仕掛けを使った魚釣りでタイワンタナゴを狙っていただく。
寒いためか、ウキに出るアタリは小さいものの、生命感はある。
タナゴ釣りのコツを伝えながら辛抱強く狙ってもらうと、お求めのタイワンタナゴが掛かり、大はしゃぎの大興奮!
魚釣りって、やっぱ生き物採集の手段としても楽しいもんだよなって感じる一コマだ。
早速、観察ケースに入れて撮影タイム。その後は、タナゴ釣りのコツを掴んだようで、タイワンタナゴの他に、タイリクバラタナゴやモツゴ、カワイワシ、ジルティラピアが釣れ上がった。
オイカワを狙って小規模河川へ
雨がしっかりと降っていたこともあり、安全にガサガサができそうな小規模河川にオイカワを狙って入ってみたが、ささ濁りで難易度は高そうだった。
そうとは言え、そこは名人技の持ち主。タモ網1本で次々と魚を掬い上げていく。
新しい魚種が採れる度に大きな雄叫びが台湾の里山にこだまし、僕は携帯に集積していた画像と採れた魚を同定していく。結果、この川では大変美しいヨシノボリの仲間として知られる、Rhinogobius rubromaculatusを始め、3種類のハゼ系とカダヤシ、ゲオファーガス類が採れた。
今回、ゲストさんが外来魚は興味なしとのことだったのでゲオは同定しなかったが、台湾には様々な移入種が定着している実態を知ることができた。
結局、この川ではオイカワの幼魚は採集できたがエボランスか同定できず、初日の採集を終えた。
2日豪雨により大移動
2日目は朝夕の時間帯にオイカワを釣りで狙い、日中はタニノボリとリザードフィッシュに集中するというスケジュールで起床するも大雨と大増水により狙っていた河川は壊滅的な状況。
仕方なく、朝マヅメどころか午前中を名一杯使って、累積降雨量のデータを信じた大移動を行った。
雨の形跡の無い急流で網を振っていただくと、ヨシノボリの仲間としては最大種であるRhinogobius gigasが入り、2人で大興奮!やはり、どんな魚種でもギガスと名の付く魚は魅力的だ。
他には、ボウズハゼなどハゼ類が入るも、タニノボリとリザードフィッシュには出会えず、移動を決断することに。
走るオイカワ、追いつけない人間
どうしてもタイワンオイカワだけは採りたいということで、里川のような雰囲気の川へやってきた。
川を覗き込むとオイカワが泳いでいる!さっそく、タモ1本でザブザブと川に入ってオイカワを狙うも素早いオイカワは中々捉えられない。
それならばと、長い延べ竿で狙ってみるが活性が低く上手く食わせられない…。
タイワンハナマガリやタイワンアカハラは新しい魚種として追加できたが、目の前を泳ぐオイカワを捕えきれずに悔しがるゲストさんをオイカワが群れる場所は見つかったから、マヅメ時に釣りで釣ろうと説得し、リザードフィッシュとタニノボリを探しに別の川へ移動を提案した。
圧巻のガサ技術
僕らの滞在している地域にもとうとう雨が振り出した。
流水環境が絶対条件のリザードフィッシュとタニノボリはそろそろ決着付けないとまずそうだねと話しながら、日本で下調べした際に確証を持てなかった川を覗いてみると環境がとても良さそうなので入川してみるとに。
雨の中、職人作業のように石を返してはタモを掬い上げるゲストさんを撮影していると、ウォーーー!と雄たけびが上がった。
駆け寄ると、網の中にはリザードフィッシュ(Formosania lacustre)が入っている。この瞬間ばかりは僕もウォーーーーーー!と声を上げてしまった。
同所的に生息するタニノボリ
リザードフィッシュとタニノボリが好む環境が似ていることは予習済みだった。
数分後には2度目の雄叫びが冷える台湾の山に響き渡るだろうな。僕はそう予想していた。
期待通りの雄叫びに呼ばれてゲストさんに駆け寄ると、タモ網の中にはタニノボリ(Hemimyzon formosanus)がしっかり納められていた。
成果が作る攻める決意
日中に諦めた川に行けばオイカワは確実に生息しているが、僕の頭の中ではもっと可能性が豊かで、他魚種も狙えそうな水路がイメージできていた。
ゲストさんに、日本で話していた水路へ向かってみないかと提案した。
ゲストさんも同じことを思っていたようでさっそく移動開始。なんとか日暮れ前に目的の水路に到着することができた。
水路を覗き込むと沢山のオイカワがライズしているではないか!
2人でハイタッチ!そして、すぐさま延べ竿を振っていただくと、念願のタイワンオイカワ(Opsariichthys evolans)を釣り上げることができた。
至高のひと時
ゲストさんの念願だったタイワンオイカワ釣りを楽しんでいると、タカサゴオイカワも掛かってきた。この水路に来れば出るかもと思っていただけに嬉しい副産物だ。
他には、移入種になるがSystomus rubripinnisやストライプスネークヘッドを確認することができた。
3日目は桃園にて打ち上げ
ゲストさんが絶対に採りたいと願った4魚種すべてを手にしていただくことができて、本当にホッとした。
3日目、すなわち最終日は、少し早めに桃園に戻って美味しい飯でも食べてゆっくりしましょうとゲストさんが提案してくれた。
僕の中には、全く情報を掴めていなかった幻の魚が裏ボスとして存在していたので、夜ガサに出動するつもりでいたのだが。
今思い返せば、最高の流れと成果を生みだした2日目の夕方で今回の採集を締めくくって正解だったのかもしれない。
あいにく、2日間で一度も太陽を見ることは無く、魚達の写真も満足に撮影できなかったが、写真はまた婚姻色が鮮やかな時期に…。いつか、再訪しようと誓い合った。
3日目の朝。例外なく冷たい空気が台湾を覆いつくし、止むことを知らない雨がザーザーと降り続いていた。
筆者、山根央之がアテンダーとして活動するChill Tripはコチラ