一面が雪に覆われ、白銀の世界が広がる北の大地の晩冬。網走の海岸線を車で移動しながら、先ずは流氷を探す。風向きや潮の流れに大きく影響されるため、流氷は沖に流されたり接岸したりとタイミングによっては観ることさえできないこともある。この日はタイミングが悪く、網走近郊には接岸が拝めなかった。この付近は無理だと判断し、再び車を走らせて世界遺産登録地域でもある知床に向かうことになる。
僕等の目的は流氷の海を漂うクリオネだった。
知床の高台から海を眺めるとなんとも壮大な景色が広がり、大海が氷に覆われている。流氷だ。
北海道の流氷はサハリン北東部で海水温がマイナス1.8度を下回ると発生し始める。その後サハリンから吹く北風にさらされ更に凍結を繰り返しながら北海道沿岸まで流れ着いて来ます。1月~3月にかけて北海道で流氷が頻繁に観られるのは網走・知床・紋別と言われています。
クリオネとは
ギリシャ神話に登場する女神の名前から名付けられたクリオネは流氷の天使とも呼ばれている。
クリオネを掬う
網、観察用の水槽、長めのゴム手袋、ウェーダーはネオプレーン素材がお勧めだ。ウェーダーはしっかり穴が開いていないか確認しましょう。ウェーダー内への浸水は即、戦線離脱を意味する。
至ってシンプル。寒くないように着こんだら、ウェーダーを履き、網を持って流氷が押し寄せる浅瀬に入ろう。流氷の隙間の浅瀬に漂うクリオネを探します。クリオネの体内に透けて見えるオレンジ色の内臓が自然界では中々観ることがない色。ひときわ目立つので、オレンジ色を目印にひたすら水中を探す。
かなりの苦戦。数時間流氷の海を探し続け、僅か3匹のクリオネを採取するに留まった。
3匹のクリオネが観察水槽に入った時点で日が陰りはじめたので、今回のクリオネ採取は終了した。
3匹とはいえ、クリオネを採取できたぞ。流氷の天使に感謝。観察水槽に入れたクリオネ達を観察しよう。
分類は軟体動物門腹足綱裸殻翼足目ハダカカメガイ科。身体の両側に観られる翼足を使いフワフワと泳ぐ。
鰓はなく、皮膚呼吸で体内に酸素を取り込んでいるようだ。写真の体内にみえる気泡はその取り込んだ酸素なのだろうか。何時間でも観ていて飽きない癒しの生物だ。
クリオネを食べてみた
さて、虎の子の三匹のクリオネ。巻貝の一種であるクリオネの味だが、賛否両論。此処は一度味わってみたいと私と友人の加藤氏が食べてみる事にした。
本日のメニューはクリオネの踊り食いです。手に乗せたクリオネを口に運ぶ。プチっとした食感の後に広がるオホーツク海の香り。『おいしい貝の風味も少し…!!?』と一瞬、天使が舞い降りたかと思わせておいて、その後に来るトイレの芳香剤のような香り。僅か一粒でお口いっぱいに広がる特別な香りに白目をむきそうだ。
加藤氏に至っては微妙な味に顔が既にクリオネの様になっていた。食べた自分が言うのも申し訳ないが、やはり天使は喰うものじゃない。
僕等のクリオネ試食会の様子を眺めていた世界最大の鷲である大鷲は目を背け、近くにいたキタキツネは足早にその場を立ち去った。色んな意味で貴重な体験。クリオネ掬い劇場は幕を閉じた。
*この記事は2019年4月10日に掲載されたMonsters Pro Shopのリメイク記事になります。