男が泣くのは財布を無くした時だけだぞ!小さな頃から厳格な父親に少年はそう教わって育った。ところが年頃になった彼はとある女性と出会い恋しさのあまり毎晩のように泣いていたそうな…
さて、蝉は卵から孵化し幼虫として7年もの長い期間を地中で過ごす。地中から這い出た幼虫は成虫となり、7日程度でその一生を終えるが、その僅か7日間で雄のセミは必死で泣き続け、愛しいあの子を誘うのである。蝉の鳴き声を聞くと彼はその昔を想い出し、とても切ない気持ち苛まれる。
日本のセミ
30種を超える蝉の種類が日本に生息しているが、彼らはあの強烈なにおいを放つカメムシの仲間である。
以下、身近で代表的な日本のセミご覧いただきたい。
クマゼミ(Cryptotympana facialis)
体表は黒く羽の付け根は緑色。西日本に多く生息する印象。6~7cmほどの大きさで
『ワシャワシャワシャワシャ』と鳴く。
アブラゼミ(Graptopsaltria nigrofuscata)
クマゼミ同様で代表的なセミ。クマゼミとほぼ同じくらいの大きさ。『ジッジッジッ・ジリジリジリ』と鳴く。
ニイニイゼミ(Platypleura kaempferi)
3~4㎝程の小型なセミ。『チィィィジィィィィ』と鳴く。
ツクツクボウシ(Meimuna opalifera)
ニイニイゼミと同じく小型のセミ。名前の通り『ツクツクボーシ』と鳴く。
ミンミンゼミ(Hyalessa maculaticollis)
『ミーンミンミンミン』と鳴く。体表の緑色の部分が鮮やかに映える。
以上5種類のセミたちは比較的身近な場所で観察可能。是非、近くの公園や森に網を持って出掛けていただきたい。
外来種・タケオオツクツクを探す。
いよいよ本題、外来種のタケオオツクツクの登場だ。元々、中国の中部に分布していたこのセミ、輸入された竹ほうきと共に日本にやってきたと言われる。現在は埼玉県川口市を筆頭に、神奈川県、愛知県にも生息しているらしい。今後の生息域拡大が懸念される。
生息地で有名な埼玉県川口市赤山城跡へ足を運ぶ。広い敷地にはとても美しい竹林があるが、タケオオツクツクの成虫は竹の汁が好物。この竹林周辺を捜索する。
竹林の周辺にはセミの幼虫が地中から出てきた際にできる穴が目立つ。まだ新しい!これは期待できるぞ。
セミの幼虫は地中から出た後、外敵から身を守るため、地表から高いところに這い上がり成虫への羽化を行う。しかしながら、竹はセミの幼虫にとって上りにくいようで近隣の木や竹林の周囲に造られた柵に登っている様だ。竹林内に生えている大木には凄い密度で抜け殻が付いている。
赤山城跡に入ったのは16:00ほど。まだタケオオツクツクは鳴いていないが、竹林のかなり高いところに数匹姿を確認できた。その後、運良く敷地内の木にとまっていたタケオオツクツクの1匹を発見。52歳渾身のハイジャンプで何とか1匹手掴み捕獲に成功。着地と共に足をくじいたことも追記しておく。
セミ頭部。もうフォルムも体表の色も最高じゃないか!
セミの頭部。中央の注射針の様なものが口吻と呼ばれる器官。所謂、口である。この口を使い樹液を吸う。
セミの腹部。腹部両側についている葉っぱの様な器官を腹弁という。この服弁が目立つ個体が雄である。
日が暮れる頃いっせいにタケオオツクツクは鳴き始める。『ギュイーン』と言った。機械的な音が竹林に響き渡る。完全に日が落ちきっても暫くけたたましい鳴き声は続いたが、暫くすると一斉に鳴き声はとまり、そして静けさと共に竹林に闇が訪れた。
完全に夜が訪れ、竹林の様相も全く変わった。少々おどろおどろしい。
そして、タケオオツクツクの鳴き声が完全に収まった頃、いっせいに地中から幼虫が這いだし始める。
やっと地中から這い出て羽化を始めたが蟻に襲われた個体。もうひと息の所で無念だ。
殻を破りイナバウアー状態の個体。得点は300点越え。荒川さんもビックリのスコアをたたき出した素晴らしい羽化。
無事羽化を終えた個体。飛び立つまでもうひと息。
タケオオツクツク生息地・羽化タケオオツクツクに混じってアブラゼミも羽化を終えた。
抜け殻を比較。左がタケオオツクツク。右がアブラゼミだ。決して小さくないアブラゼミと比較してもオオタケツクツクの幼虫は圧倒的に大きい。
無事に15匹程のタケオオツクツクの幼虫を捕獲し自宅に持ちかえる。羽化の観察を行うためと美味しいと評判のセミの幼虫を調理する為だ。因みに運搬中に幼虫が羽化するのを防ぐために氷水に浸けて仮死状態にして運ぶと良いという噂を聞いて実践してみたが、どうやら氷水に浸けると致死する確率が上がるようだ。クーラーボックスに別途のタッパーに入れ、冷やした状態で運搬する方が良さそうだ。
タケオオツクツクの羽化
自宅に持ちかえった幼虫たち。元気の良い個体を観葉植物にとまらせて羽化を観察した。木を上り暫く動かないが、その場でモゾモゾと動いたかと思うと突然羽化が始まる。背中が盛り上がり、その後、幼虫の背中が割れ美しい成虫が姿を現しはじめる。下側に頭部を向けながら殻から出たかと思うと上手に反転して抜け殻につかまった。
タケオオツクツクの幼虫を食べる
さて、観察を終え調理に掛かる。時計の針は既に深夜3時をまわろうとしている。セミの幼虫はタケオオツクツクの故郷中国の伝統料理で頂く。とはいっても塩水で15分程浸けた幼虫を油で揚げて塩を振って頂くだけの素揚げなのだが。
そして出来上がったセミ料理がこちら。
外はカリっと中身はフワっとした小海老を揚げた様な食感と味。時折噛んだ時にプシュっとお腹から何か出てくるのを感じるのが不快だが、決して、その出てきたものは確認しないようにお勧めする。
食材としてのセミは栄養価も高いし、昆虫食の中では美味しい方ではなかろうか。
栄養満点のセミ料理を食べたとは言え、片付けまで終えたのは朝日がさしこむ5時。徹夜明けの出勤が確定した。
いまにも鳴きそうである。
*持ち帰ったセミは責任もって最期まで飼育するか食してください。決して野外に放さないようにお願いします。