2023年ゴールデンウィークも佳境。今年も潮干狩りシーズンを迎えた海岸は家族連れやカップル達でごった返していた。
アサリを採っては大喜びする子供達。マテガイを砂浜から抜きあげては奇声を上げる若い彼女。その様子をニヤついて眺める彼氏。皆とても楽しそう。
一方の僕はと言えば、広い海岸の波打ち際をうつ向きながら行ったり来たり、とても寂しそう。潮干狩り場で一番の異彩を放っていた。
そんな僕の目的は一つ、潮干狩りの嫌われ者・ツメタガイだ。
ツメタガイとは
以前ご紹介した貝の種類の中でも典型的な巻貝であるツメタガイ。アサリなど二枚貝を食す恐怖の肉食巻貝として有名。
巻貝の足の部分を広く開き二枚貝を捕らえては、酸を分泌する器官と歯舌を使い貝殻に穴をあけ貝の身を食べてしまう。其の食欲は非情に旺盛で、折角の楽しい潮干狩り場を非情にも台無しにしてしまう程。
その為、潮干狩り場などで非常に嫌われている。
恐怖の肉食巻貝アカニシガイ。
恐怖の肉食巻貝イボニシガイ。
巻貝の仲間にはサザエの代用として重宝するアカニシガイや、磯の小さな巻貝イボニシガイ等が肉食巻貝が見受けられる。そして、アカニシガイはとても美味しい。また、イボニシガイは磯のフジツボ等を食べている点からも、美味しいアサリを主食とするツメタガイの悪名には遠く及ばないと言えよう。
さて、このツメタガイ、市場に出回ることは殆ど無い様だ。地方によっては食材として利用されているそうだが、煮た際にかなり悪臭を放つとの噂もある。
潮干狩り場の子供達やカップル達の笑顔を守るため、ここは是非、捕まえて食べてみようではないか。
たとえ、ツメタガイが放つ悪臭の正体が強烈な放屁臭・脱糞臭だったとしてもやむを得ない。
ツメタガイを探す
ツメタガイを探すこと1時間程。既に干潮を過ぎ潮が満ち始める。潮干狩りを楽しんだ多くの人達はバケツ一杯のアサリ、アカニシガイ、シオフキガイ等を笑顔で持ちかえり、辺りは貸し切り潮干狩り場と化していく。
そんな中、足元に砂が凝固した様な奇妙な形の物体を見つける。これがツメタガイの卵塊。通称『砂茶碗』と言われるものだ。4月のアサリの最盛期に合わせて、海岸沿いに押し寄せるツメタガイは、5月・6月に産卵期を迎える。
いよいよツメタガイの登場だ。半透明の幅広い足をマントの様に広げ、想像を超える早いスピードで砂地を移動する。そうかと思うと器用に砂へと潜っていく。
小振りなツメタガイも数個見かけた。貝の様子がツメタガイとは若干違う。どうやらツメタガイにも数種類の仲間がいるようで、最初に捕獲したのは元祖ツメタガイ。こちらはサキグロタマツメタガイと別種の様である。何れにしても双方恐怖の肉食巻貝だ。
ツメタガイを食べてみよう
持ちかえったツメタガイ達。いよいよ調理に掛かる。先ずは軽くボイルし巻貝から貝本体を取り出す。
現れたのは、非常に美しい螺旋状の内臓。ツメタガイとサキグロタマツメタガイの内臓は、流石に別種だけあって様子が違う。
先ずは刺身。非常に歯応えがあり、よく言えばサザエの食感に似ているような….貝の旨味もあり悪くない。
通常食用として流通しない、未利用貝としておくには勿体ないレベルの食材だ。
続いては壺焼き。こちらも味は悪くない。ただし砂を含んでおり、ジャリジャリ感が満載だ。火を通した後は、洗って砂を落とす必要はありそうだ。
尚、内臓は少々苦みが強く好き嫌いは別れそうだが、個人的には非常に濃厚で美味しい。
最後に、ツメタガイのエスカルゴバター風。非常に美味しい一品。バターに貝の旨味が移り、硬めのパンと共に完食に至った。
結果、普通に持ちかえって食べて良い貝という感想。ただ持ちかえる際は、せっかく採ったアサリとは、一緒には入れておかない方が良いかもしれませんね。
さて、最後に気になる悪臭。
本当のところ、調理中に脱糞や放屁の匂いが漂うとの事で期待していたのだが、結果、私の放つおならの方が、ツメタガイ臭の50倍ほどの臭気を放つことが判明した。
まさに嬉し恥ずかしの結果となった事を最後に記して筆を置く。
*貝類の採取は、場所や種類により漁業権が設定されている場合があります。
違反すると厳しく罰せられますので、くれぐれも事前に調べたうえで行ってください。
BRECOLで過去に紹介した貝類の記事はこちらより