今回はハンガリーに住む友人が遠路はるばる利根川までやってきたお話しをしたい。
この春、僕ら山根兄弟が力を合わせて本気を出した釣行サポート記。お楽しみあれ。
カープフィッシングの世界チャンピオン
友人としてガボールを紹介するなら、巨大魚釣りが好きな行動派アングラーという表現の方がシックリとくる。
つまり、彼も世界を旅する怪魚ハンターだ。
ブラックカープに憧れる世界チャンピオン
鯉釣りを専門とし、カープフィッシングメーカーの社長を務めるガボールは、言わずもがなコイ釣り大好きアングラーだ。
そんなコイ釣り界の最高峰として、世界中のカープアングラーが憧れる魚の1つにブラックカープが挙がるらしく、何としても釣り上げたいとのこと。
因みにブラックカープとは、日本でアオウオと呼ばれるコイの仲間で、180cm前後まで成長する大型淡水魚だ。
僕ら山根兄弟がテレビ東京系列 緊急SOS池の水全部抜く大作戦でアオウオを釣り上げた回をご覧になられた方もいらっしゃることだろう。
今のところ2ヶ月も実釣に帯同すると言ってきた番組ディレクターは池の水だけだ。
(運よく5日間で釣果を出すことができたのだが、アオウオ釣りは時間がかかることで有名なのだ)
本当にアオウオを釣りにやってきた
釣れなくても文句なしという条件でガボールのアオウオ釣りをサポートすると約束したのは2019年の春シーズンを終えたころだったと記憶している。
2020年春以降は皆さんご存知の通りCOVID-19の影響により、外国人が来日し辛い状況が続いたため、延期に延期を重ね、2023年ようやくガボールは万全たる釣行日数をとって利根川にやってきた。
欲がないと魚が寄ってくる
草刈りと餌撒きを兼ねて、ガボールが到着する前日から竿を出していると、何といきなりアオウオが掛かってきた。
何日待っても掛からないこともあれば、初日にヒットすることもある。それが大物釣りというものだ。
明日掛かってくれよ…。なんてことは微塵も思わず、1年ぶりに味わう至福のひと時に酔いしれながら竹竿を名一杯曲げこんで、アオウオらしい重厚感ある引きを楽しんだ。
曲げすぎて、3分割に竹竿が折れてしまったことは、ブレコの中だけの秘密にしておいて欲しい。
そんなこんなで、アオウオを釣った日の夜、僕たちは数年ぶりの再会を喜び合い、利根川が比較的良い状況であることを共有した。
世界チャンピオンだろうが気負いせずアドバイス
実釣初日の朝、自分たちのタックルでアオウオに挑みたいと言うので、PEラインだけナイロンに巻き替えればOKと伝える。
利根川で釣りをしたことがあるガボールは、リグや餌について概ね僕の釣り方に賛同してくれたのだが、このPEラインは南米で2mのピラルクを釣った最強ラインでナイロンなんかよりずっと強いと言い張った。
何度も石が多くてPEは切れるリスクがあると説明しても言うことを聞かないワールドチャンピオン。
百聞は一見に如かずということで、ウェーダーを履いて大きな石抱えて陸に上がり、PEラインをスパッと切って見せると、まるで漫画のように大きな口を開けてカメラマンとともに固まってしまった。
ハンガリーのコイ釣りの常識が変わった瞬間だったのかもしれないが、そんなことはお構いなしに4台のリールをナイロンラインに巻き替えさせていただいた。
3日間、アタリ無し。通常営業なのだが…
さて、わざわざ文章に起こすまでもなく、最初の3日間はアタリすらなくあっという間に過ぎ去った。
毎年、アオウオ釣りを楽しんでいる僕としてはこれぞアオウオ釣りという身構えなのだが、ガボールとカメラマンは3日目の昼過ぎごろから明らかに焦り苛立っているように感じた。
まぁ、焦っても、苛立っても、のんびり待っても、楽しんで待っても、釣果に差は出ないのだが、少々焦り苛立ったほうが、釣れた時の感動は大きくなるので僕ら兄弟は各々PCで仕事をこなしながら2人を見守っていた。
4日目、アオウオがヒットする
4日目ともなると、ガボールのトークやインサート映像はおおかた撮り終えてしまっている。
さぞかし暇になるかと思っていたが、ティックトックを永遠と見続けられるようでiPhoneさえあれば大丈夫なご様子だ。
僕はというと、そろそろアオウオが食いつくんじゃないかと感じ、竿の傍で座り込んでいると本当に道糸が微かに揺れた。
『ガボールッ!ウォッチ!!』と叫ぶと同時にリールがジィィーーッと音を立て、バイトアラームがビィーッビィーッと泣きわめき、一瞬にして現場に緊張感が走った。
僕が竿の傍に座り込むのは毎日恒例の儀式みたいなもので、偶々その時にヒットしたのだけれど、この釣りでヒットシーンが見られると何処となく得した気分になるのは僕だけではないはずだ。
ヒットの瞬間を目撃できた喜びを噛みしめながら、ガボールとカメラマンのウェーダー着用を手伝い、ヒットから2分程度で入水ファイトが始まった。
PEライン最強説は謎だったが、アオウオとのファイトは天下一品の腕前。さすがワールドチャンピオンだ。
焦る素振りは全くなく、時間をかけながらも隙を見せないファイトで危なげなくアオウオを水面に浮かせてみせた。
最高に嬉しい瞬間を分かちあった
この数年間、友人であるガボールにアオウオを釣って欲しい、ガボールが納得して使ってくれるリグや釣り方を考えたい。そんなことが僕のアオウオ釣りのモチベーションの1つであったことは間違いなかった。
だから、無事ネットにアオウオが収まった瞬間、感極まってガボールに抱き着いてしまった。
人の釣った魚で喜べる釣りって最高だ。
結果3尾のアオウオとの出会いを果たす
アオウオのような大物釣りでは、1尾目が最も感動的になることが多い。
このあと何尾か追加することができたのだが、サイズ的には一番小さかったもののやはり1匹目が最も感動的であった。
誰にとっても初めてのイッピキってやっぱり格別なのだ。
異なる価値観と触れ合う
僕はアオウオ釣りにおいては、大きさや重さに価値を見出せずにいるので、体重はおろか長さも正確に計測していない(100kg級が釣れちゃったら価値観変わるかもしれないが)。
どちらかと言うと、せっかく綺麗な魚体なので可能な限り傷が少ない状態で(なんやかんや傷ついちゃうけど)リリースしたいなと思っている(外来種と分かっていながらも)。
一方で、ガボールは長さだけでなく体重も正確に測ることをとても重要視しているようだった。
魚の計測については、お互いの価値観をぶつけ合った結果、陸揚げせずに水上で完結できる器具を揃えるということで折り合いをつけていた。
体重を測る際に編地で擦れたり鬱血したりして真っ赤になったお腹は気にすることなく、釣り針が掛かっていた傷口には青い薬をたっぷり塗って気遣いしていることには敢えて突っ込まなかった。
多少擦れてしまっても、アオウオであれば元気にリリースできることは何となく分かっていたからね。
彼らなりに、魚の状態に気をつかってくれているのが伝わってきただけでも僕は満足だった。
またいつか一緒に釣りができるように
長かったようで、短かったガボールとのアオウオ釣行。
またいつか、彼らと一緒に大物釣りを楽しめる日が来ると良いなと思う。
きっとガボールも僕と一緒で同じ魚では遠征しないはずだ。
彼がときめくような大物釣りを探すのが当面の僕の目標の1つになりそうだ。