約170万年前(諸説あり)までユーラシア大陸の一部であった奄美大島は、地殻変動により大海原へと切り離される。元々大陸に生息していた生き物達は、この島と共に黒潮の影響を受けた温暖な気候の中で生き続け、この島特有の生体系を作り上げる事となった。
この島は固有種・絶滅危惧種の宝庫である。
アマミノクロウサギとは
2016年に逢うことのできたアマミノクロウサギの子供の個体。
この島を代表する生物のうちの一つ。
上記したように、奄美大島が大陸と一つであった時代に、既に生息していた種である。人間がこの島に住み始めて、他の生物を持ち込む以前は、ハブ以外の外敵はいなかった。また、大陸で増えた野ウサギが、奄美大島には入っていなかった事も起因し、環境の変化と共に進化する必要性がなく、170万年もの長い年月をその姿で生き続けた。彼らもまた『生きた化石』と呼ばれている。
哺乳綱兎形目ウサギ科アマミノクロウサギ属に分類されるが、アマミノクロウサギ属はこの一種で構成される。大きな個体で全長50㎝・2.7㎏ほど。ウサギと言えば飛び跳ねることに特化し、後ろ足は長く発達しているが、本種は穴を掘ることに特化し四肢は短く、爪が非常に発達している。
彼らの育児は非常に特徴的で、巣穴を堀って、その巣穴の中で育児を行う。子供に授乳した後には、巣穴の入口を埋めてしまう。これは天敵のハブから、子供たちを守るためと言われている。
日本の特別天然記念物、環境省レッドリスト絶滅危惧IB類 (EN)、種の保存法による希少野生動植物種、日本(奄美大島・徳之島)の固有種、生きた化石といった生き物好きタイトルをそうなめ。広角打法で有名な三冠王も、驚愕のタイトルホルダーでもある。
アマミノクロウサギの天敵ハブ。
増えすぎたハブを減らす為にマングースが移入されたが、そのマングースがアマミノクロウサギを襲うようになる。そして今度はマングースを駆除するに至った。
更に、野生化したネコが森に住み着き、アマミノクロウサギの天敵となる。
アマミノクロウサギを探そう
先ずは、瀬内町周辺の林道を探す。近くにはアマミノクロウサギ注意の看板がいくつも設置されている。
林道にはいくつものアマミノクロウサギの糞を観ることができる。この林道周辺には確実に生息しているようである。
生き物を探す際、その糞を手掛かりに探すのと可能性があがる。
野生動物が排泄を行う際は、無防備になる。その為、見通しの良い場所で排泄を行うケースが多い。一方僕は、野外において草陰に隠れて排泄する。
昼間の林道は、アマミノクロウサギの糞と野生のヤギが姿をみせてくれた。
野生の山羊。
飼育されていた山羊が逃げ出して野生化した。近年数が非常に増えており、問題になっている様だ。
その晩、クロウサギが2羽程観ただけで終了。警戒心が非常に強い個体達で、カメラを構えた頃には素早く道路から森へと姿を消してしまった。
翌日はクロウサギのメジャースポットである三太郎峠へ。
現在の夜間通行は、許可制になっている。ネイチャーガイドを利用しない方は、必ず下記より事前予約しましょう。
まもなく日が落ちる時間。街灯もない林道に漆黒の闇が訪れると共に、期待が高まる。林道を車でゆっくり走り生き物の姿が見えると車を停め撮影を繰り返す。
アマミヤマシギ(Scolopax mira)、沖縄諸島と奄美大島周辺の島に生息。沖縄県では天然記念物に指定される。夜の林道頻繁に現れた。
アマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)、奄美大島の固有種で小型の鼠。非常に素早く警戒心も強い。写真を撮るのは一苦労する。
ケナガネズミ(Diplothrix legata)、沖縄北部・徳之島・奄美大島に生息する日本の固有種。尾が長くそれを使い木登りが上手。
三太郎峠は、クロウサギ観察のメッカであり、多くの観光客やツアーガイドの夜間の利用が多い。その為、動物達も多少は人間慣れしているのであろうか、警戒心が若干薄い様にも感じられる。お陰様で魅力的な生き物たちが次々と美しい姿を魅せてくれた。
そして、峠道の半分程にさしかかった頃、いよいよ月明りに照らされてクロウサギたちが姿を現しはじめる。
ガードレール脇に姿を魅せてくれた、本日最初の一羽。
道路わきの草を食べていた個体。僅かに見える足先には、発達した爪が伺える。彼らが茂みに走り去る様子は、明らかに野ウサギのそれとは違う。また、かなり急な斜面の崖であっても簡単に駆け上がることができる。
耳は短く、四肢は短い。丸みを帯びた体格は、ウォンバットやクアッカ等有袋類を彷彿させる容姿。
深夜、他の予約した車も人もいない状況が良かったのか。
今宵はクロウサギたちの写真を容易に撮ることができた。
その日は満月。月に浮かぶクロウサギも微笑んでくれたが、某有名女優さん扮したかぐや姫が現れることは決してなかった。三太郎峠だけにちょっぴり期待したのだが。