ホワイトスタージョン釣行記『前編』 皇帝と呼ばれた魚 (カナダ・チリワック)

ホワイトスタージョン釣行記『前編』 皇帝と呼ばれた魚 (カナダ・チリワック)

魚類に留まらず両性爬虫類から昆虫まで探して国内外を旅する 嬉し恥ずかしの51歳。福岡県出身・おうし座。

辺りは薄っすらと明るくなり始め、大河フレザーリバーが朝日に照らしだされた。川岸に茂る針葉樹林と遠くに薄っすらと見える雪山。そこから吹き下ろす冷たい風に震えながら、僕は船長の到着を待っていた。

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。

 

昨日カナダ南部のチリワックに到着した私は、慣れない運転でこの街から遠出をする気にもなれず、釣行に必要なライセンスを取得する以外は、この小さな街で退屈な時間を過ごした。

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。バンクーバー国際空港からチリワックまで110㎞ほどの距離。

 

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。チリワックという小さな街。一通りの物が揃うが、これといった観光の目玉はない。釣りに集中できるので問題はないのだが….

 

 

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。ホテルから歩いて3分ほどの釣具屋でライセンスを取得。狩猟用品も所狭しで並んでいる。

 

北米最大の淡水魚にして世界最大のチョウザメ・ホワイトスタージョンをこの手に抱くために、遥々この街を訪れた。しかしながら、ホワイトスタージョンを狙うベストシーズンは6月~9月。今回の釣行は11月初旬と水温が下がり始めるシーズン終盤であり、若干の不安を抱えての釣行であった。

時間通りに船長のロッドがやって来た。手際よく船を川面に浮かべると挨拶もそこそこで「先ずはチャムサーモンを釣りに行くぞ」と出船を僕に告げた。

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。

 


ホワイトスタージョンとは

ホワイトスタージョン(Acipenser transmontanus)

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。北米大陸の西海岸の河川に生息するチョウザメの一種。チョウザメと名前が付くが、サメやエイなどの軟骨魚類の仲間ではなく硬骨魚類である。口は長い吻の根元の4本の髭の後ろに下向きについており、この4本の髭で使って餌を探し、川底の魚類の死骸や卵塊、甲殻類などを好んで食べているようである。その食性の割には、かなり大型化し、最大で全長3m76㎝の記録がある北米大陸最大の淡水魚で約3億年前からその姿を変えていない古代魚であり生きた化石でもある。

 


フレザーリバーを遡上するサーモン達 

<p>ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバーに遡上するサーモン類。</p> <p> </p>フレザーリバーには、6種のサーモンが産卵のため遡上する。河口から上流まで何千キロという距離を大切な命を繋ぐために数か月もかけて上流に向かう個体群もあるという。

産卵を終えたサーモン達は大河に亡骸を浮かべ、熊などの動物類、猛禽類、水鳥、そして流された死骸や卵塊はスタージョンの餌となり生態系の礎となっていくのである。

 

僕等のボートは上流に10分ほど走り、瀬の脇にとまった。瀬にはサーモンらしき背びれがいくつもみえる。船長は『先ずは俺が釣るからちゃんとみておけ!1投目で釣るからな!!』そう言うとフェザージグのウキ釣り仕掛けを瀬の10m程上流に投げ込んだ。

1投目….何も起こらない。バツの悪そうに船長は僕の方をちらっと見る。
空かさず2投目を投げ込んだ。
しばらく漂ったウキは見事に沈み、船長がド派手にあわせた。ド派手に水面が水しぶきをあげ、立派なチャムサーモンの雄が現れる。
その後、彼の竿を借りた僕も数投で立派なチャムサーモンを釣らせてもらった。

遡上に伴っての傷が体表に全く入っていない美しい個体ばかりだった。

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。チャムサーモンを釣る。ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。チャムサーモンを釣る。ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。チャムサーモンを釣る。美しいチャムサーモン達。やはりワニ口の雄は無条件に格好良い。
短時間で美しいチャムサーモンを釣った僕は大満足。スタージョンを釣りに行こうと船長にせがんだ。

『いや!この上流に少し走ったところにサーモンの産卵場所があるので其処の様子を観に行こう。心配するな。スタージョンは20分もあれば釣れるから!!』そういうと船長は更に上流に舵を切った。

ボートは勢いよく大河を上る。途中チャムサーモンを狙うフライマン達と気さくに挨拶を交わす。
そして、その更に上流にその場所はあった。

川岸に横たわるサーモンの屍。其の屍をついばむ水鳥や猛禽類。川岸にはクマの足跡。そして、浅瀬には傷ついたサーモン達が、最後のひと仕事であるスポーニングを行っている。まさにこの大河の生態系の縮図のような壮絶で美しい光景がそこにはあった。

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバー。チャムサーモンを釣る。

 

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバーの生態系。チャムサーモンを釣る。大型のチヌークサーモン(キングサーモン)の亡骸も横たわる。

 

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバーの生態系。チャムサーモンを釣る。ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバーの生態系。チャムサーモンを釣る。ハクトウワシや水鳥たちがサーモンの屍を啄む。

 

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバーの生態系。チャムサーモンを釣る。船長曰く2週間前までは熊の姿もみられたらしい。かなり大きな足跡もあった。

 

ホワイトスタージョン釣行。カナダ・フレザーリバーの生態系。チャムサーモンを釣る。傷だらけのチャムサーモン達。今まさに最後の仕事を終えようとしている。



 

ホワイトスタージョンを狙う

僕がこの光景に感動しているのを察したのか、船長もとても満足気だ。よく喋る船長が益々饒舌になる。
『さぁ!スタージョンを釣らせてやる。大概の釣人は数時間で5,6匹釣って満足するぜ!腰を痛めないように注意しろよ。』
そう言うと、いよいよスタージョンのポイントへむけて船を走らせた。魚探には巨大なスタージョンが無数に写り込んでいる。

これは凄い!と楽勝モードを期待して数時間…..

何も起こらない。

更に数時間が経ち、数匹60cm、70㎝程の皇帝というより小さな皇太子さま的なサイズが釣れたのみ。
そして更に数時間が過ぎ、針葉樹の林に向けて日が傾きだした。

ホワイトスタージョン釣行。手にしたのはとても小さなホワイトスタージョン達。魚探に映し出されていた無数の巨大スタージョンはいったい何処に?

 

ホワイトスタージョン釣行。饒舌だった船長も黙り込み一言だけ『Bad day….』と呟いた。

後編に続く。

 

*この記事は2020年1月8日に掲載されたMonsters Pro Shopのリメイク記事になります。

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